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入賞者

第32回日本動物児童文学賞 入賞作品一覧

1.日本動物児童文学大賞 <環境大臣賞状交付対象>(1名)

作品名 氏名 都道府県名
君がいるから、うまく読めるよ 西村 ひとえ 山口県
<受賞理由>
読書サポート犬や引退後の盲導犬などのやや難しいテーマを取り上げながらも、動物の人間社会への貢献や動物福祉について考え、自ら成長する主人公の姿は感動を呼ぶものがあり、「犬の幸せとは?」を考えるきっかけとなる良作だった。一方、作品内で紹介された動物愛護センターでの収容期間は、全国の動物愛護センターで実際に行われている実状とは異なる点や、最後に発表した調べ物学習での主張が主人公の設定年齢にしてはやや大人びているように感じた点など、違和感を抱く部分もあった。しかし、人のために働く犬の老後にスポットを当てた題材は希有で、文章の展開も軽快な力作であり、本賞の大賞にふさわしい作品である。

2.日本動物児童文学優秀賞 (2名) 

作品名 氏名 都道府県名
猫の乗客 石田 七海 神奈川県
<受賞理由>
通学列車に乗り込んできた一匹の白猫と少女の物語。導入が少しミステリー仕立てで引き込まれ、興味深く読まされてしまう。動物愛護の観点からは、野鳥への餌やりや、屋外へ自由に出入りができる環境での飼育、また、主人公と再会した猫に対し、以前約束したからと言って自分の家に連れて帰るという判断等、やや問題がある部分は散見された。しかし、登場人物たちの動物に対する自然な優しさが随所で表現されており、入院している人の心を動物がケアする描写など、人に対する動物の重要性を唱える作品となっている。
ツバメ飛ぶころ 小粒 すずめ 千葉県
<受賞理由>
心に傷を持つ男性と、動物好きの少年のやり取りが温かく描かれているさわやかな作品。少年は自然から新しい世界の見方を知り、人間に不信感を持った男性は、人と動物の関わりから、人と人との関係性を見つめなおす構成となっている。動物を通じた人間の成長と再生の物語。見た目では判断できない人のやさしさも大事さも描かれており、優秀賞にふさわしい。

3.動物児童文学奨励賞 (5名) 

作品名 氏名 都道府県名
カラス de カルタ のだ ますお 東京都
<受賞理由>
偏見の多いカラスを題材にした秀作。カラスに対して恐怖を抱く少年が、夏休みの宿題を通してカラスにまつわる雑学をいろいろと学んでいくテンポの良いストーリー。読者も楽しみながらカラスの生態が学ぶことができる。ただ、結末がやや淡泊に終わった点は残念であり、もう少し動物愛護精神の醸成につながるストーリー展開があると良かった。
いっそ世界が猫だったら まきうち れいみ 東京都
<受賞理由>
重度の障がいのある兄を疎ましく思っていた主人公が、子猫を通して兄との関わりに対する葛藤が描かれた、考えさせられる作品。動物との関わりだけでなく、動物を通した人との関係について、主人公のポジティブな変化と迷いの両面を表現している点が良かった。よい話ではあるが、動物の愛護というよりも、障がいを持った兄に主軸がおかれており、動物の存在感が薄くなってしまった点が残念。
親友の犬は… ちゃーちゃん 岩手県
<受賞理由>
主人公と親友の男子はそれぞれ愛犬を飼っているが、主人公はリアルな犬を、親友は AIの犬を買ってもらい、それぞれの魅力を知る。AI犬の機能や活用性の高さがあらわになる一方で、生身の動物の温かさや素晴らしさに気が付く情景がうまく描かれている。今の時代にマッチした物語で、完璧なものにはない動物の魅力や、動物と人との間の愛情を思い起こさせる。文が長く読みにくい面もあるので、前置きを短くし、本題に焦点を絞るとなお良い。
老犬ドングリがのこしてくれたもの 山下 厚 千葉県
<受賞理由>
隣家で飼われている老犬ドングリと主人公の出会い、そしてドングリの死を通して人が交流する物語。物語の前半はドングリとの物語だが、後半には隣家のお姉さんの経営する牧場の話へと一転する。牧場の実情や牛の専門性が高い学術的な内容が羅列されており、児童文学として対象年齢の子どもたちからの理解を得ることは難しいのではないか。特に、物語終盤は作者の主張が全面的に出てしまい、動物愛護としての観点が薄れてしまったように感じた。会話を短くし、説明調の文章を工夫すると良い。
マリィからの手紙 岡田 陽子 千葉県
<受賞理由>
小鳥が死んで悲しむ主人公が、偶然見つけた空き地にいる子犬と遊ぶようになる。小学2 年生の少女と友達の、ひと夏の子犬との物語。全体を通して、生き物を大切に思う作者の温かい目線が感じられるほのぼのとした作品。物語はとても楽しく、子犬のマリィと主人公たちとの触れ合い、やり取りに読者はワクワクして読み込める。ただ、主人公が小学2 年生に設定されているが、使用されている漢字が難しすぎるので、対象年齢を意識した言葉選びをする必要がある。

第33回日本動物児童文学賞 入賞作品一覧

1.日本動物児童文学大賞 <環境大臣賞状交付対象>(1名)

作品名 氏名 都道府県名
おまんじゅうとクッキーと、わたし みたに さくら 千葉県
<受賞理由>
夢の中に亡くなったひいおじいちゃんが登場するところから始まるファンタジックな物語ながらリアリティがあり、野生動物との共生や犬の譲渡活動、終生飼養に係る課題など、複数の問題提起が物語の中にうまく盛り込まれている。異なる問題を見事に解決していく展開には胸が躍り、筆の力を感じた。
読みやすい文体で、全体的なストーリーも非常に練られており、作品の完成度が高く、本賞の大賞にふさわしい作品である。

2.日本動物児童文学優秀賞 (2名) 

作品名 氏名 都道府県名
ごめんね、ジュン 感王寺 美智子 福岡県
<受賞理由>
犬を飼いたい娘と反対する母の物語を通して、人と動物の絆や適正飼養の意義、命の大切さについて、強く訴える作品である。
母が持つ犬とのつらい過去を知った娘が、その心境を理解し母をいたわる優しさも良く描かれている。母の過去の描かれ方にやや大仰な印象が残るが、身勝手に生き物と接することがどれほど残酷であるのかということを教えてくれるとともに、動物と向き合う家族の心の動きが温かく描かれた素直に感動できる作品である。
声が聞こえる 伊東 葎花 茨城県
<受賞理由>
草むらで震えていたところを父親に拾われた子猫と、その猫が10 歳の時に生まれた娘。そんな猫と少女の交流を軸に、子猫が家族になるきっかけ作りや喧嘩の仲裁などのエピ ソードが散りばめられた物語である。
拾った子猫を大切な家族の一員として最後まで看取った様子と、その後の新しい命との出会いが軽やかな心理描写とともによく描かれており、物語全体に流れる猫に対する愛情を深く感じる。全体的に落ち着いた表現で物語として完成度の高い感動的な作品である。

3.動物児童文学奨励賞 (5名) 

作品名 氏名 都道府県名
ゆみこさんとみーこ 工藤 直子 茨城県
<受賞理由>
野良猫と主人公の人生、そして家族の成長が重なるとても良い物語である。細かな描写がとても生き生きとしており、主人公に誠実さを感じた点もよい。
動物を飼育する際に、その動物の立場に身を置くことの大切さを訴える、人情味あふれた作品である。
ハウス 北岡 克子 大阪府
<受賞理由>
心に傷を持つ少年が犬との関係性を通して成長する物語である。文章構成がよく、短文でユーモアもあり、犬と人との愛情と絆が感じられる作品である。犬の健気さ、弟の葛藤、兄の優しさなど、家族の心情もうまく表現されているが、結末にかけて、やや性急な印象となった点が残念に思われた。
セナとベアリーのおはなし 渡邊 夏葉 岐阜県
<受賞理由>
吃音のために人と交流することが苦手だった主人公が、犬を飼い始めたことをきっかけに、コミュニケーションをとることの大切さを知って成長していく物語である。
成長過程がよく描かれており、犬を飼う上で必要なことなどもわかりやすくまとめられている。多様性、コミュニケーション、人と動物との関係で大切なことを教えてくれる作品だが、児童を対象とするには、文章がやや難解なのが惜しい作品である。
三人の子猫 卯野 雅文 北海道
<受賞理由>
話の展開が全体的に唐突な印象は否めない。しかしながら、河童の兄弟を主人公とするファンタジー性と、イメージしやすい情景描写、読みやすい文体は児童文学作品として読み手を引き込む魅力がある。猫に対する当初の「かわいい」という主観的視点から、「猫にとって何がよいか」を考えている客観的視点に変わっていく過程が上手く描かれており、本文学賞のテーマにふさわしい作品である。

第34回日本動物児童文学賞 入賞作品一覧

1.日本動物児童文学大賞 <環境大臣賞状交付対象>(1名)

作品名 氏名 都道府県名
モモとタロウ 寺田 喜平 岡山県
<受賞理由>
家業である牛飼いを通して、畜産動物と向き合う家族の心の動きとそれを通して成長する兄妹の成長の姿が描かれた作品。「牛飼い」という、いずれは食用となる命と真剣に向き合う姿が読者の心をつかみ、牛飼いについて、観念ではなく、実体験に基づいていると思わせるリアリティがある作品である。牛の飼育や子牛の誕生を通して命の大切さや動物の命をいただいて生きる人間について考えさせられ、畜産農家の大変さや食のありがたさを知るきっかけになり得る作品である。はじめのうちは牛飼いの仕事を嫌っていた兄妹が、牛飼いとしてのさまざまな出来事を通して、兄は祖父や父と同じ牛飼いに、妹は動物の命を大切にする獣医師になろうという決意に至る過程が自然に描かれ、人と動物の関係を子どもたちにもしっかり伝える作品である。

2.日本動物児童文学優秀賞 (2名) 

作品名 氏名 都道府県名
堤防の道の散歩 竹内 佐永子 愛知県
<受賞理由>
両親の離婚により引っ越したばかりで友達がいない小学四年生の少女が、唯一の気分転換である川の堤防の道の散歩をしていたある日、キジの夫婦を見つけて興味を持ち始めたことから鳥への興味が広がり、そのことがきっかけでクラスメイトと少しずつ仲良くなっていく。両親の離婚という複雑な家庭環境と、引っ越したばかりで周りに馴染めない主人公の心情の変化が鳥に対する関心や知識の高まりに絡めて自然に、かつ丁寧に描かれており、複雑な家庭環境で育つ主人公を通して、様々な環境の中で暮らしてゆく多様性を示すとともに、読み手である子どもたちに、鳥のさまざまな子育て、家族像を通して、自らを見つめる機会を与えるきっかけになり得る作品となっている。少女の気持ちを描くリアリズムと、話の間に挟まるキジの夫婦の擬人化が無理なく物語を成り立たせ、少女とキジによる交互の異なる目線からの描写が、物語をユニークに展開させている。自然保護の観点と、堤防の工事という防災対策の観点との兼ね合いの中で、動物との共生を考えるきっかけになり得る作品である。
岬の野生馬 小俣 麦穂 長野県
<受賞理由>
宮崎県南部の都井岬に生息する日本在来馬の一種である御崎馬。この野生馬を通じて、野生馬の特性や人間の管理の関わり方の難しさをリアルに描いている作品。生まれてすぐに死にそうになっている子ウマの「ナイ」を人間が手助けすることによって、その後のナイの野生馬としての生き方に大きな影響を与えてしまうという、実存する野生馬に着想を得て生み出されたドキュメンタリータッチの作品。大自然の中で営まれる野生馬の生態が生き生きと描かれており、野生馬の生態が良く理解できる作品である。また、野生馬に人間が関与していくことによる影響が、物語に深い奥行きを与えて、野生馬の管理の難しさが上手くまとめられており、野生馬と人間との関わり方を丁寧に描いた作品である。

3.動物児童文学奨励賞 (5名) 

作品名 氏名 都道府県名
タレンとヨーサン二匹の猫のものがたり 尾崎 順子 兵庫県
<受賞理由>
二匹の捨てられた猫が、一匹は野生の猫として逞しく、もう一匹は飼い猫として穏やかに、それぞれ境遇の異なる環境の中で成長し、それぞれの道をそれぞれが満足する生き方を選択しながら猫らしく生きていく姿を描いた作品。生い立ちの異なる二匹の猫が、それぞれに猫らしく生きることを選択する描写が、子どもたちの主体性や豊かな感性を育てる可能性を感じる作品。一方、物語の中には自然保護問題、野生鳥獣問題、捨て猫問題、認知症問題などが盛り込まれており、さまざまな社会問題について無理なく考えさせられる作品でもある。
香菜子の決心 井上 理博 神奈川県
<受賞理由>
譲渡会で出会った盲目の老犬を飼うまでの、過去の辛い経験からくる家族との葛藤を描きながら、動物福祉と愛護を背景に、犬の譲渡活動、終生飼養、命の大切さ、人と動物のふれあいという課題を通し、それらについて考えさせることを読みやすい文体でまとめられた作品。保護犬を迎える母と子の心情の描写が読み手の心を惹きつけ、老犬の認知症と人の認知症とを絡めて高齢犬を最後までしっかりと面倒を見ることの大変さや大切さが丁寧に描かれており、犬を飼うことの意味を家族で追求していく展開が、読み応えを感じさせる作品である。
手のひらの命 伊東 葎花 茨城県
<受賞理由>
生き物が苦手な主人公が、とあるきっかけからハムスターを飼うことになり、ハムスターの飼育を通して家族が成長していく物語。ハムスターの特性がよく描かれており、ハムスターの飼育を適正に行う姿勢がしっかりと伝わり、動物との絆と命の大切さがよく表現されている。ハムスターの飼育を通して起こる事件を通して、複雑な家庭環境から生じていた家族関係が少しずつ改善され、小さな命を通して命の大切さを知ることによって家族が成長していく姿が描かれている心あたたまる作品である。
おかえりナイア 堀部 明美 奈良県
<受賞理由>
能登半島に住む少年「かい」は、ある夏の日の朝、おじいちゃんと海岸を散歩しているときに子イルカを見つけ、命の危機を救う。数日の後、ぱったりとイルカを見なくなり、心配になって子イルカの夢を見る。翌年、大好きなおじいちゃんが他界し、悲しみに沈んでいるかいは、弱っている子犬を助けることで、限りある命の大切さを感じ、自分も元気になっていく。
主人公が出会ったイルカ、飼い始めた犬、おじいちゃんとの別れを通して、命と生きることの意味をしっかりととらえていく姿が深く描かれている作品。野生動物と人間との関わり、野生動物保護と自然環境保全の大切さがよく描かれている作品である。
金魚のあかちゃん まきうちれいみ 東京都
<受賞理由>
小学三年生の「まお」は、夏祭りで金魚すくいをし、金魚を飼うことになり、一生懸命金魚の世話をする。翌年、妹と行った夏まつりで、金魚の友達を作ってあげたいという思いから、再び金魚すくいをして新しい金魚を持ち帰るが、新しい金魚が病気を持っていたために、最初に飼っていた金魚が死んでしまう。
金魚の飼育を通して、生き物を飼うことの責任をしっかり伝えようとする意図が感じられ、命について考えさせられる作品。金魚の適正な飼育の理解不足から生じた、「金魚を死なせてしまった」経験から、生き物を飼うことは楽しさもあるが、飼うときには、その生き物の特性をあらかじめ学習して適正に飼育することの大切さを教えてくれる作品である。

第35回日本動物児童文学賞 入賞作品一覧

1.日本動物児童文学大賞 <環境大臣賞状交付対象>(1名)

作品名 氏名 都道府県名
猫と戦争 まきうちれいみ 東京都
<受賞理由>
戦争体験者の祖母と戦争を知らないひ孫との世代間でのペットへの扱いの違いは、動物愛護に関心を持つきっかけになると同時に、被災時のペットとの避難のあり方についても考えさせられる作品である。また、戦時下に幼少期を過ごした主人公が、国のために自身の飼い猫を献納したつらい経験をリアルに描写しており、戦時中特有の相互監視の雰囲気や、貧しい生活の中で国のために生きる様子は、子どもたちに過去の歴史について知ってもらうきっかけともなり得る作品である。
戦争という重いテーマを扱っているが、祖母とひ孫との軽妙なやり取りによって、物語が重く悲しいだけでなく、バランスが保たれた読後感が良い作品となっている。

2.日本動物児童文学優秀賞 (2名) 

作品名 氏名 都道府県名
ぼくがライフに出会うまで 川瀬えいみ 東京都
<受賞理由>
小学校入学と同時に引っ越し、友達がいないまま三年生になった少年が、国語の時間に書いた家族についての作文がきっかけで家族で犬を飼うことを検討することになるが、両親は動物を飼う「覚悟」について少年に問いかける。両親のペットとの辛い経験が語られる場面では、適正飼養や終生飼養の課題について、自然と考えさせるような構成になっている。
また、子どもながらに親に気を遣って本音を打ち明けられない少年の様子や新生活の不安、反抗期など、子どもたちに深く共感を与え得る内容を織り交ぜつつ、生き物を飼うことの責任や命の大切さを説くと同時に、家族との絆を描くことで読者に共感と学びをもたらしている。
シュガーにさよなら 伊東 葎花 茨城県
<受賞理由>
三年前、お母さんのうっかりで逃げてしまった飼い猫のシュガーに、主人公の愛実が校外学習の農業体験で訪れた農家で再会する物語。シュガーと再会した喜びの反面、他の家の猫として過ごすシュガーへの複雑な気持ちなど、愛実の心情が丁寧に描かれており、読者の共感力を育むことができる作品となっている。
都会にある愛実の家と田舎にある農家でのシュガーの様子を通して、人や地域によるペットの安全管理や飼育の意識の相違、予防接種などの飼い主の責務について考えさせる要素も含まれており、自らのペットに対する責任を深く考えるきっかけを得ることができる作品である。

3.日本動物児童文学奨励賞 (5名) 

作品名 氏名 都道府県名
カメ様の思し召し ―ぼくのカメ飼育録― タケルノミコトモドキ 東京都
<受賞理由>
 カメの飼育方法や生態について非常に詳細に描かれており、餌のあげ忘れや掃除を怠ってしまうなど、ペットの飼い主が共感できるようなエピソードを交えて飼育の難しさや奮闘がリアルに描かれている。また、終生飼養の重要性や飼い主の責任についても説かれており、読者へペットを飼うことについて考えさせるきっかけを与えるとともに、学校という身近な環境で起こり得る出来事を通して、友達、先生との関わりの中で子ども達が成長していく姿がよく描かれている。
人獣共通感染症にも言及し、読者に対して意識を喚起する役割も果たしている一方、所々でファンタジー要素を巧みに取り入れることによって、堅苦しさが緩和され、より魅力的な作品となっている。
おかえり リキ! 横田 善広 福島県
<受賞理由>
東日本大震災で被災した家族が、ドッグトレーナーの被災犬保護活動により、被災地に取り残してしまった愛犬と再会を果たす物語。町の様子や置き去りにされたペットの様子などがリアルに描かれており、被災地や被災ペットの深刻な状況を、臨場感をもって感じ取ることができるような作品である。
飼い犬のリキを置き去りにした後悔や、再会の喜びなど、多様な感情が描かれており、読者に深い感動をもたらし、作品に引き込む要因となっている。
また、被災ペットの保護活動に焦点を当てており、保護活動の難しさや苦労が詳細に描かれている。ペットの育て方による保護活動への影響など、普段からの適正飼養の重要性についても教えられる内容であり、動物飼養に対する意識を深めるきっかけとなり得る作品である。
クリスマスホーリー 名倉 せてら 愛知県
<受賞理由>
壮年男性のロバートは、唯一心を許せる存在である執事の入院をきっかけに、警察犬には向いていないがファシリティドックとして素晴らしい活躍をするニコと出会う。動物嫌いのロバートだったが、ニコの素晴らしい活躍や優しさに触れるうちに、次第に心を許していくようになる物語。ニコの愛らしさが作品に魅力を加え、読者の心を惹きつけている。また、ニコがファシリティドックとして患者の生活をサポートする場面や、自身の能力を生かしている様子を描くことで、ファシリティドックの存在と必要性に対する理解や、人と動物との共生の在り方について考えを深めることができる作品となっている。
「たかがペット」って言わないで! こばやし きよ 群馬県
<受賞理由>
愛猫のエルを失った小学五年生のありすは、クラスメイトのりつを通して保護猫トラと出会う。トラは、飼育するためのトライアル中に逸走してしまう。クラスメイトたちの協力によりトラが無事に戻ってくる過程の中で、地域猫やTNR活動について丁寧に描かれ、「さくら猫」や「逸走」、「終生飼養」といった猫の福祉愛護の理解を深めることができる作品である。
また、りつの「トラは生きているんだ。ぼくらと同じように、生きているんだ。」というけんごへの言葉は、読者に対しても、動物も私たちと同じように生きていて、感情や要求があることを認識し、人と動物が共生するよりよい社会づくりのために私たちがどのような責任を負い、果たすべきなのかを気付かせるような重要なシーンとなっている。
サヤのおはなし 髙橋 久美子 山形県
<受賞理由>
ツキノワグマの子熊サヤが熊の家族のぬくもりと自然の四季を体験しながら成長していく物語。森にすむ野生動物の生態や共生について詳細に描かれており、読者は飽きることなく作品の世界に没入できる。特に、森の恵みを食べる描写は、読者の味覚までも刺激するようである。
また、温かい話だけではなく、動物から見た自然の厳しさや人間の身勝手さ、人間から見た害獣の問題など、人と野生動物との関わりの厳しさと難しさが描かれており、自然に読者が動物と共生する大切さや相互理解の重要性に気付くきっかけになり得る作品である。