令和4年の新春を迎え,地方獣医師会の皆様,会員構成獣医師の皆様,関係団体の皆様におかれましては,ご清栄にて新年をお迎えのこととお慶び申し上げます.本年も皆様方がご健勝でご活躍されますことをお祈り申し上げますとともに,本会に対しましてなお一層のご指導,ご支援を賜りますようお願い申し上げます.
令和元年12月に中国の武漢市で発生し,わが国でも令和2年1月に初発生が確認された新型コロナウイルス感染症は,瞬く間に全世界にまん延し,パンデミックとして人類を恐怖に陥れました.全世界での感染者数は2 .5億人,死亡者数は506万人,わが国でも感染者数は172万人,死亡者数は1万8千人を超え,国民の日常生活,医療,教育,経済活動など広範な分野において深刻な影響を与えました.最大の流行となった第5波は9月下旬になって新規感染者数が急激に減少し,9月30日には緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が全都道府県で解除され,さらに飲食店の営業時間短縮要請も10月25日に5都府県で解除されました.約2年近くに及ぶ不自由な生活からようやく解放されましたが,3密の回避やマスクの着用など基本的な感染対策を継続し,第6波を引き起こさないよう留意する必要があります.
新型コロナウイルス感染症の影響で開催が1年延期された東京2020オリンピック競技大会は令和3年(2021年)7月23日から,パラリンピックは8月24日から,いずれも第5波による緊急事態宣言下で無観客での開催を余儀なくされました.しかし,長年の夢であったオリンピック競技に参加できたアスリートたちが,メダルを目指して競い合う姿は,テレビで観戦する私たちにも多くの感動と未来への希望を分かち与えてくれました.
本感染症は,本会や地方獣医師会の業務活動にも多大なる影響を及ぼしました.本会の令和2年度の第77回通常総会は書面開催となり,令和3年度の第78回通常総会も55会員のうち43会員がWebまたは議決権行使書での出席となる異例の開催となりました.また,例年10月初旬に開催してきた全国獣医師会会長会議は2年連続で書面開催,翌日に開催してきた動物感謝デーも2年連続で中止とせざるを得ませんでした.さらに,日本獣医師会獣医学術学会年次大会及び地方獣医師会による地区獣医師大会・獣医学術地区学会も,令和2年度は中止,令和3年度はWeb開催となりました.
一方,新型コロナウイルス感染症禍を受けて,ポスト・コロナ対策として新興・再興感染症の再発防止や被害軽減を図る活動として,人と動物の健康と環境の保全を一体的に捉えて対処する「ワンヘルス」の普及と実践が世界中で注目されています.本感染症をはじめ,近年世界中で恐れられている重症急性呼吸器症候群(SARS),中東呼吸器症候群(MERS),新型インフルエンザ,エボラ出血熱,牛海綿状脳症(BSE),狂犬病などは,すべて動物由来の人と動物の共通感染症です.
本会は,平成22年に「動物と人の健康は一つ。そして、それは地球の願い。」という獣医師会活動指針を採択し,「ワンヘルス」の実践活動に積極的に取り組んできました.また,平成25年11月には本会と日本医師会が学術連携協定を締結し,その後全国の地方獣医師会と地域の医師会も同様の協定を締結して,全国的な「ワンヘルス」の実践体制が構築されました.この獣医師と医師の連携の下,新型コロナ禍にあっても,人と動物の共通感染症や薬剤耐性(AMR)対策等をテーマとした連携シンポジウムの開催等に積極的に取り組んで参りました.
特に,平成28年11月に開催された「第2回世界獣医師会 -世界医師会『ワンヘルス』に関する国際会議」において採択された「福岡宣言」に掲げられた人と動物の共通感染症の予防,抗菌剤の責任ある使用,医学・獣医学教育の改善整備についても積極的に取り組んできました.また,私の地元の福岡県では令和3年1月に,日本国内はもとより世界でも類を見ない「ワンヘルス推進基本条例」を制定し,医師,獣医師,医療関係団体ばかりでなく県民を挙げて「ワンヘルス」を巡る課題の解決に向けた社会活動を推進していくことになりました.さらに,本年11月11日から13日の3日間,ヒルトン福岡シーホークを会場に第21回アジア獣医師会連合(FAVA)大会が「アジアからのワンヘルスアプローチ」を大会テーマとしてアジア・オセアニア地域をはじめ世界中から獣医師,獣医療等の広範な関係者が集い開催されます.このFAVA大会に先立って私はFAVA会長に就任する予定であり,本大会の主催者として新型コロナウイルス感染症を克服し通常の日常生活や経済活動の再出発を期する記念すべき国際大会となるよう必ず成功させる所存です.令和4年度日本獣医師会獣医学術学会年次大会も本大会と同会場で同時開催の予定であり,是非とも,全国から会員構成獣医師をはじめ動物看護師,獣医療関係学生など多くの関係者や市民の皆様が参加されるよう期待しています.
本年は,われわれ獣医師及び獣医師会が30年にも及ぶ要請活動の成果として実現した二つの法制度として,愛玩動物看護師法が令和4年5月1日に施行されます.既に愛玩動物看護師国家試験及び予備試験を実施する指定試験機関として,本会の酒井健夫顧問が機構長を務めておられる一財動物看護師統一認定機構が指定されました.同機構は,さらに指定登録機関及び講習会実施機関としての指定も目指しており,本年5月の法施行後には,同機構により指定講習会,予備試験が実施され,令和5年2月には第1回愛玩動物看護師国家試験が実施される予定です.獣医療分野では長年にわたり国家資格者は獣医師のみでしたが,国家試験合格者が愛玩動物看護師名簿に登録されることにより,ようやく新たな国家資格者として登場することになります.愛玩動物看護師は,獣医師の指示の下に診療補助業務が実施可能となり,獣医師との役割分担と連携の下で,高度かつ多様なチーム獣医療提供体制の構築が期待されます.その具体例として,日常の健康管理や早期受診など総合的な獣医療を提供する「かかりつけ病院」と,専門的かつ高度な獣医療を提供する「二次診療施設」との連携体制の構築について,本会内に設置された認定・専門獣医師協議会による専門獣医師制度を活用して取り組んで参ります.また,愛玩動物看護師等による動物介在医療の推進,高齢飼育者の支援や地域コミュニティーの再構築等,地域社会と連携した飼育協力体制の確立にも貢献できるものと期待しています.
本年6月1日には,もう一つの新制度として,動物愛護管理法の改正による販売用の犬・猫へのマイクロチップの装着・登録の義務化が施行されます.マイクロチップにつきましては,これまで地方獣医師会のご協力も得て動物ID普及推進会議(AIPO)として普及活動を続けてきた結果,令和3年11月現在,AIPO登録データベースには約272万頭の犬・猫等のデータが登録されています.法制度に基づく共通登録データベースはAIPOとは別に管理・運用する必要がありますが,本会は唯一の指定登録機関として,会員構成獣医師及び地方獣医師会との強固な連携の下に,個人情報の保護を含めた円滑な情報の登録・管理業務の実施体制を早急に構築して参ります.マイクロチップに関する一連の事業は,獣医師によるマイクロチップの装着と装着証明書の交付から始まり,新規登録,犬・猫の販売に伴う変更登録と続き,まさに獣医師及び獣医師会が一体となって制度を担っていくことになります.さらに,狂犬病予防法に基づく犬の鑑札もマイクロチップで代替できることとされ,次回の法改正では,販売用以外のすべての犬・猫へのマイクロチップの装着・登録の義務付けとともに,注射済票も代替可能として狂犬病予防事業のワンストップサービス化が実現できるよう引き続き要請して参ります.
新型コロナウイルス感染症禍により,例年4~6月に実施されている狂犬病予防注射事業は,令和2年度及び3年度においては特例として12月末まで実施期間が延長されました.しかし,本事業を所管する市町村等の対応の違いにより,地方獣医師会が受託している狂犬病予防注射事業の円滑な実施に大きな支障をもたらしました.マイクロチップ登録事業の法制度化を契機に,地方獣医師会では是非とも狂犬病予防事業全体の市町村からの一括受託を推進され,両事業の一層円滑かつ効果的な運用体制の確立に向け本会とともにご尽力をお願いいたします.このような新たな法制度は,国民全体の利益向上に繋がるとともに,獣医師会組織の基盤強化にも大きく寄与することが期待されますので,皆様のご理解とご協力について重ねてお願いいたします.
同様に本会が長年取り組んでいる課題として,獣医師の地域及び職域における偏在の解消と,その主な要因となっている公務員獣医師及び産業動物獣医師の処遇改善があります.これらの職域の給与水準については相互に影響しているため,同時に改善へと取り組む必要があります.これまでの全国知事会,都道府県議会議長会,総務省等への粘り強い要請活動の成果として,近年は多くの地方自治体で初任給調整手当を獲得し,また,福岡県や徳島県では医療職給料表に替えて特定獣医師職給料表の制定といった成功事例もあります.今後は,初任給調整手当に替えて恒久的な獣医師職手当や,獣医師独自の給料表の制定を全国で実現していく必要があります.また,農業共済組合の家畜診療所に勤務する獣医師についても,保険診療以外の収入源の多元化を図った上で,給与水準の大幅な改善を目指して参ります.さらに,将来は獣医師の過半数を占めることになる女性獣医師の就業支援対策では,女性獣医師応援ポータルサイトを開設しての就業・復職支援等のための情報提供,雇用者等の理解醸成のためのシンポジウムの開催,獣医学生向けのセミナーの開催,就業支援研修等を実施しており,引き続き有効な対策を推進して参ります.
近年は,北海道から九州まで全国各地で,地震,台風,集中豪雨,火山の噴火等の自然災害が多発し,多くの人々や動物が被災されました.本会としては,このような大規模災害への対応・支援として,診療費助成などの被災動物救護活動や被災地の獣医療提供体制の早期復旧に向けた支援及び支援金の募集に取り組んでいます.また,熊本地震の際に設立した九州災害時動物救援センターの活用,地方獣医師会の災害対応についての地域活動ガイドラインや獣医療支援チーム(VMAT)の育成を含む本会の災害対応マニュアルを策定しており,地方獣医師会や都道府県等と密接に連携しながら迅速な支援活動に努めて参ります.
平成30年9月に岐阜県で26年ぶりに発生した豚熱(CSF)については,遺憾ながら15県の飼養豚で発生が確認され,36都府県において飼養豚にワクチン接種が実施され,野生イノシシに対しては経口ワクチンの散布が行われています.私たち獣医師は,重要な家畜伝染病の未然防止,発生時の迅速な防疫対応について,適切に役割を果たしていかなければなりません.このようなわが国の畜産が直面する大きな課題に対しては,産業動物及び家畜衛生の関係者にとどまらず,すべての職域の獣医師が情報を共有し,それぞれの立場で迅速な収束に向けて全力で取り組む必要があります.
獣医学教育の改善・充実への取組みにつきましては,本会は,国際水準の獣医学教育の提供を目標に掲げ,文部科学省や獣医学系大学と連携して支援活動を実施してきました.診療参加型臨床実習及び体験型家畜衛生・公衆衛生実習の実施体制の確保については,全国の獣医学系大学との連携・協力の下で「獣医学実践教育推進協議会」を設置して,わが国獣医学教育の改善・充実のための取組みを強化しています.
国際貢献への取組みでは,世界獣医師会(WVA),アジア獣医師会連合(FAVA)等と連携しながら,アジアのリーダーとしての役割を果たしてきました.先に述べたように,令和4年11月には福岡でFAVA大会を開催するとともに,FAVA会長としてアジア・オセアニア地域全体を視野に入れた活動を推進して参ります.さらに,JRA畜産振興事業としてアジア地域の若手獣医師を招聘する「アジア地域臨床獣医師等総合研修及びネットワーク構築事業」については,全国の獣医学系大学等のご協力の下で平成29年度から再開しましたが,アジア各国から事業の拡大の要望が出されるなど大変好評であり,今後も本事業を活用しながら国際貢献を果たして参ります.また,日本獣医師会,大韓獣医師会及び台湾獣医師会の間で締結された「東アジア3カ国における獣医学術交流に関する覚書」に基づき,令和元年2月に新横浜で「東アジア三カ国獣医師会サミット」を開催しました.令和2年及び3年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で開催が中止となりましたが,今後の東アジアにおける獣医学術交流の益々の発展が期待されています.
以上,地方獣医師会及び会員構成獣医師の皆様,また日本獣医師連盟をはじめ関係団体の皆様のご理解とご支援をいただき,本会会長として多様かつ重要な課題に積極的に取り組むため,本会の組織,事業及び財務の見直しと改革を含め,本会が強靭かつ柔軟に激動の社会に立ち向かいながら一層発展することができるよう,引き続き努力して参ります.今後も新型コロナウイルス感染症禍の懸念はありますが,本年も通常総会,全国獣医師会会長会議,理事会,職域別部会委員会,特別委員会等で積極的に議論を重ね,その総意に基づき新たな決意で果敢に挑戦して参ります.一層のご理解とご支援を賜りますようにお願い申し上げ,新年のご挨拶とさせていただきます.