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 平成12年(2000年):
 五十嵐会長新年の挨拶に,第1に,獣医師の誓い―95年宣言や「動物医療の基本姿勢」を定め,各地方獣医師会を通じてそれぞれの会員に対する徹底をお願いしてきたが,一昨年来過剰診療・獣医療過誤・高額診療金等小動物医療に対する週刊誌やテレビを通じてのマスコミによる批判が展開され,獣医師の信用を失墜させる不詳な事態となった.そこで「第56回通常総会」においてインフォームド・コンセントを徹底すること等について記者発表することが重要であるとの決定をいただき,これを受け昨年9月14日動物愛護週間直前に銀座東急ホテルを会場として記者会見を実施し,その後も引き続き各獣医師会の理解と協力により診療施設内に診療料金やポスターの掲示,動物医療相談窓口の設置等が進められている.すでに医療分野においては,東京都立病院で患者や家族の求めがあればカルテ等の診療情報を原則として開示する方針を発表し,薬剤師も処方の内容を説明する時代を迎えている今日,獣医療のみ閉鎖的であることは許されない時代であることをご理解いただきたい.
 第2に,動物の保護及び管理に関する法律の一部を改正する法律は,関係議員はじめ多くの方々の尽力により昨年末臨時国会で全会一致で可決成立した.今後は関係団体との強い連繋を保ちつつ,人と動物が共生できる社会作りに邁進したい.また「水を飲む時井戸を掘った人の恩を忘れるな」との古諺のとおり,かつて「動物の保護及び管理に関する法律」の立法に際し,ご努力・ご指導を賜った愛知揆一,大出 俊両代議士のご苦労にあらためて感謝の意を表する.
 第3に,地方分権に伴う狂犬病予防事業に関する対応について各地方獣医師会において,それぞれ現地の実状に即応した施策について検討を進めておられることと思われる.わが国を世界に誇る狂犬病清浄国とした先輩達の偉業を傷つけることのないよう,都道府県及び関係市町村との連繋を密にし,注射率の向上を期していただきたい.
 第4に,学校飼育動物に関する取り組みについては,すでに地方会ならびに日小獣において地域の意向を踏まえてその重要性を認識し,対応しておられることに敬意を表する.特に群馬県獣医師会は小寺弘文知事のご理解・ご指導により全県下にわたり組織的活動が進められており,日獣としては平成10年(1998)4月,文部省に対し「初等教育における動物を活用した情操教育について」提言を行い文部省の本件に関する委員会に2名の委員を推薦し,ガイドライン作成にも強力な支援を続けてきた.昨年改正された新小学校学習指導要領の中では「地域の獣医師と連繋し,動物の適切な飼い方についての指導を受けたり,常に健康な動物とかかわることができるようにする必要がある」と明文化された.今後は獣医師として幼児教育を通じ,動物愛護思想を高揚し,生命の尊重「いのちみつめる.いのち育む.」の重要性を認識させる努力が期待される.
 第5に,獣医師生涯教育体制のあり方については,すでに平成9年度(1997)から獣医師研修指針策定検討会において卒後教育・継続教育・専門養成教育を三本柱としての検討を進め昨年末までに全国6大学のご協力を得て卒後臨床教育の試行を進め,さらに衛星放送,CD-ROMや会誌を教材とした在宅研修のモニター調査を行う等,検討の最終段階に入っている.来年度か検討の結果を踏まえ,より具体的な施策を打ち出して参りたい.また国際獣医師研修事業は関係各国の絶大な評価を受け,継続を求められている.日獣も国際化時代を迎え世界獣医学協会,アジア獣医師会連合会等との協力を通じて国際レベルでの獣医界の発展に深い関心を寄せている.
 第6に,豚コレラ防疫について,平成13年度(2001)から第3段階に突入し,すでに岡山,鳥取,香川,三重,島根及び高知県において予防注射を中止している.今後日獣としてはこの経過を見守りながら養豚農家への衛生指導・指示書の的確な発行・サーベイランス事業の協力により,事業目的達成に向けて関係官庁と連繋をとりながら,協力を進めてゆく.
 第7に,国立大学獣医学部の再編整備については,大学教官側から「わが国の獣医系大学は学生数に対して教員数は少なく,必要な講座の開講ができないばかりか,欧米に比し施設も不備であり,早急に改善しなければ日本の獣医師は国際社会で通用しない」との危機感を募らせ,獣医学部再編整備の緊要性が唱えられている.昨年11月26日の全国日獣会長会議において全国獣医学関係大学代表者協議の唐木英明会長より,現状と問題点,さらにその改善方法に関する特別講演を拝聴し,また九州地区獣医師大会(沖縄)において岐阜大金城俊夫学長からも特別講演の際大学再編を述べておられ,日獣としても重要視しながら理事会総会の議を経て慎重に対応して参りたいと述べ,最後に世の信頼に応え,常に敬仰される獣医師像・獣医療の構築を目指して,努力をすると述べ「力ある者力を出し,智慧のある者は智慧を出し」総力の結集を強く訴えた.
 2月1日,豚コレラ撲滅対策に関連し獣医師が養豚場に関係する機会が減少する中で豚丹毒との2種混合ワクチン注射中止により人と動物の共通感染症でもある本病の発生が心配されることから豚丹毒ワクチン注射による発生予防の強力推進を求める要請を五十嵐会長から農水省畜産局長に直接提出した.
 3月25日,農水省は宮崎市の肉用牛飼養農家において口蹄疫の疑似患畜が確認された旨発表.この通知を受けて3月29日地方獣医師会長宛会員に周知徹底し対応に遺漏のないよう日獣発第284号をもって通達した.その際,私が口蹄疫発生の第1報を耳にしたのは日大の学位授与式参加席上であり,誤報であってほしいと願う思いでいた.口蹄疫の病性について村上洋介博士の論文も本誌で紹介された.災難の続く時は不思議なもので北海道有珠山噴火による救護活動も進められていたことを思い出す.
 なお,会長就任2年目に入り地方会との連繋をさらに強化することを旨とし,各県獣医師会主要行事に積極的に参加し,現地の実状に触れ,会長は勿論多くの会員との接触により相互理解を深めることとし,5月13日麻布大学創立100周年式典,5月20日富山県獣創立50周年記念式,5月24日動薬創立30周年,5月25日千葉県獣総会,5月26日秋田県獣創立50周年式典,5月28日長崎県獣総会と連続訪問し,現地の現状把握に努めた.一方,昨年8月10日,日本獣医学会高橋理事長,長谷川教授,唐木教授との友好的協力体制構築のための会談を行い,シンポジウムの共催,両者総会席上における相互の挨拶等により前向きに交流をする努力を積極的に続けた.
 5月16日,獣医学会役員と日獣役員とが懇親会を開催・獣医学,動物医療,獣医学教育や学会大会のあり方等を中心に有意義で熱心な会談が行われ,土井理事長の言葉通りSlow and Steadyに相互理解を深めることとした.さらに土井理事長の「獣医師会と獣医学会との連携」についての論説も本誌第53巻第8号に掲載され会員の理解を深めることとなった.
 5月24日,第1回理事会を開催し,[1]業務概況,[2]学校飼育動物対応,[3]口蹄疫発生,[4]有珠山災害動物救援活動等を報告続いて,[1]総会付議事項,[2]狂犬病予防法制定50周年記念事業等が議決された.この年OIE顧問小澤義博氏がOIEより世界の獣医界に貢献し金メダルを授与された.
 6月23日,第57回通常総会を明治記念館において開催.五十嵐会長より有珠山の噴火,宮崎,北海道の口蹄疫発生と二度災難があったが関係者の努力,宮崎の口蹄疫も初動防疫の徹底により短期間に終息宣言が出され国際的評価も高かった.今後も有事の対応が敏速的確に実施されることを期すと述べた.来賓挨拶として農水省
永村審議官,中瀬中畜副会長,土井日獣学会理事長からいただき,次いで宮崎県下で口蹄疫牛を早期発見し,迅速に家保に届出を行ったことによりまん延を最小限の阻止に努める等,初診での対応による顕著な功績のあった宮崎県獣の舛田利弘先生に会長表彰状を贈呈した.舛田先生は一時心ない者から,批判的な言動を受けたため,山元会長から激励電報を発信してほしいとの連絡をいただいたことも忘れられない.この山元会長も産業動物界に大きい業績を示しておられたが平成16年10月20日往診先で難産牛介助直後,逝去され,壮烈な戦死を思わせる様な最期であった.謹んで哀悼の誠を捧げたい.
 なお,宮崎及び北海道に発生した当時の口蹄疫の対応記事は本誌第53巻第12号に宮崎県における口蹄疫の発生(鬼丸利久氏)と第54巻第1号に本別町の対応(有坂孟弘氏)を参考とし,さらに有珠山噴火災害対応(佐藤時則氏)に関する記事は第54巻第2号の報告を参考とされたい.
 平成11年度に実施した全国の獣医療従事者を対象とした獣医師生涯教育に関するアンケート調査結果については,診療施設の院長は約80%継続教育を希望していること等も明らかとなり,[1]小動物診療形態として,50歳以下の獣医師1人と1〜3人の獣医師以外の雇用者で診療するものが過半数を占め継続教育に参加することが容易でない.従って在宅研修の必要性大きく,CD-ROMやインターネットの導入が極めて有効である,[2]産業動物においては51歳以上の獣医師が1人で診療施設外で診療する形態が主体を占め,学会や研修会の参加困難で在宅研修の重要度は小動物以上である,[3]小動物診療では新しい検査,診療機器を備え基本的臨床検査は広く実施されている,[4]産業動物では野外診療が主体で大部分の臨床検査は家保等の外部検査機関依頼している等明確となり,教育プログラム作成にも良き参考資料となった.このアンケート調査の詳細は本誌第53巻第10号に資料として記載してある.
 6月30日,フランス・アルフォール大学シャルル・ピレ教授来日を機会に,前会長杉山氏,日仏獣医学会長長谷川教授等立会のもとで五十嵐会長より日獣の名誉会員認定証を贈呈した.ピレ教授はアルフォール大学学長・フランス獣医アカデミー会長・世界獣医学協会副会長を歴任し,日仏両国内の獣医学術交流推進のための多大な貢献を高く評価しての贈呈である.
 国際交流として9月27日,日独獣医師会の第3回合同シンポジウムがドイツ・ガルミッシュ-パルテンキルヘンで開催され,日本側演者2名と日独協会副会長松山 茂,日獣代表五十嵐会長が出席し,五十嵐より従来公衆衛生分野の交流を行ってきたが,今後臨床分野にまで学術交流の幅を広げてほしいとの意見を述べ次回開催までに意見調整を行うこととされた.
 11月21日,第3回理事会を開催,業務概要報告として,獣医師生涯研修,獣医療提供体制の整備,獣医師道委員会小委員会設置等説明後,松山専務より,[1]千代田生命及び協栄生命(株)の経営不振により「更正手続きの特例等に関する法律」の適用申請となり,今後新たに設置される獣医師総合福祉生命共済制度へ加入推進,[2]日本が9月26日フランスで開催されたOIEの国際会議において,日本が口蹄疫清浄国と承認されたこと,[3]有珠山噴火災害動物救護活動を終了した件,[4]豚コレラ撲滅の成果を踏まえ,平成12年10月1日以降原則として全国的に予防液接種の中止と,防疫上の混乱回避のため,同予防液を家畜伝染病予防法第50条の規定によりその使用につき都道府県知事の許可を要する動物用生物学的製剤に指定されたこと等を報告し,[5]中央省庁再編に関して農林水産省の畜産局は生産局畜産部へ名称変更され,厚生省生活衛生局乳肉衛生課の所轄業務について,狂犬病予防法等を所管する厚生労働省健康局結核感染症課と,と畜場法・食鳥検査法・食品衛生法・化製場法を所管する監視安全課へ移行され,また総理府は内閣府となり,動物の愛護及び管理に関する法律の所管は,環境省自然環境局総務課となることを説明し,[6]獣医学教育のあり方について国公立大学教育の充実と国立大学獣医学部の適正規模配置について懇談会に諮問したこと,[7]獣医師道小委員会は「獣医療の基本姿勢」につき見直す委員会であり野生動物対策委員会は新発足した委員会であること等松山専務より報告した.
 11月2日,明治記念館において第1回全国会長会議開催.前段実施の理事会報告同様内容の報告,説明を行った.
 11月22日,明治記念館において厚生省・日獣共催による狂犬病予防注射施行50周年記念式典,併せて開催され特別講演も行われた.厚生省高谷課長開会の辞に始まり,厚生大臣島津雄二氏(羽毛田事務次官代読)と
五十嵐日獣会長の主催者挨拶後,農水大臣(松原課長代読),三塚議連会長,北村顧問から祝辞をいただき,来賓紹介,祝電披露が行われ,表彰に移り,厚生大臣表彰選考経過について厚生省西本局長から(117名),日獣会長表彰選考経過を辻副会長より(118名)報告.それぞれ代表者に授与し,謝辞を岩崎徹郎氏(青森県獣)から述べ,最後に金川副会長の閉会の辞をもって記念式典を終了した.続いて駒込病院高山直秀博士の特別講演「世界における狂犬病の発生状況と日本がとるべき対策」があり,[1]狂犬病の特徴,[2]狂犬病の歴史,[3]日本での狂犬病流行,[4]第2次世界大戦後の流行と狂犬病予防法につき述べられ,最後に日本が狂犬病を根絶できた理由として,[1]島国であるため防疫活動が効率的に実施できた,[2]野生動物の間に狂犬病流行がなかった,[3]コウモリと犬の間に生活圏の重複がなかった,[4]国民の民度高く狂犬病予防に協力的であったこと等があげられた.しかしこの間に命がけで狂犬病に立ち向かった獣医師や予防技術員などの中から,狂犬病や曝露後発病予防の副反応などのため死亡したり,廃人になるなどの犠牲者が少なからず出たことを忘れてはならないと結んだ.また近隣諸国の現在における発生状況も報告された.
 12月14日付をもって谷津農水大臣から「獣医療を提供する体制の整備を図るための基本方針の公表について」が発表された.その内容については本誌第54巻第4号に掲載されている.

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