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特別寄稿

私の歩んだ日本獣医師会の24年と今後の期待(IV)

五十嵐幸男(日本獣医師会顧問・埼玉県獣医師会会員)

 4 五十嵐会長時代(1999年7月〜2005年6月)
 第9代会長杉山文男氏は6月24日第56回通常総会席上,獣医学教育6年制の実現,獣医師法改正及び獣医療法制度の実現,世界獣医学大会(横浜)の開催,国際獣医師育成研修事業の推進,生涯教育のあり方検討等偉大な業績を残し,日獣役員活動通算28年の長きに及ぶ重責を果し栄光ある勇退の決意を表明された.その後を継承し,7月1日,第10代会長に推薦を賜り就任することになり,副会長に金川弘司,辻 弘一両名が当選し松山専務理事が再任した.五十嵐は就任挨拶に大要次の重点事項を述べた.
 第1に,食糧農業基本法の制定をはじめとする農政の変革期における農業,農村の持続的発展と食料の安全保障を実現する施策の重点は,依然として変わりなく,特に動物蛋白資源の中核となる乳,肉,卵の生産基盤を確保するための産業動物獣医療の方向として,過去の個体衛生管理にとどまらず,群管理を主体とする環境衛生問題にも及ぶ生産獣医療の確立を図るための発想の転換と自己研鑽が急務であることから,今後これ等の対策を講じていかなければならない.
 第2に,わが国における狂犬病予防に関し,日獣としては,狂犬病予防法が昭和25年(1950)に制定されて以降,今日にいたるまで厚生省と連繋をとりながら狂犬病予防対策について対応し,また地方獣医師会においては,それぞれ都道府県等の公衆衛生部局との連繋のもとに狂犬病予防注射事業に積極的に取り組み,昭和32年(1957)以降世界でも数少ない狂犬病清浄国としての地位を維持しているが,これも偏に地方獣医師会の多大なる尽力の賜物であり,敬意を表する.今般,「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年(1999)7月16日法律第87号)が公布され,狂犬病予防法に基づく犬の鑑札,予防注射票の交付等の権限が都道府県から市町村へ委譲されたところである.このため,地方獣医師会では,地方分権に伴う新たな狂犬病予防事業の対応について地方関係行政部局と密なる連繋をとりながら事業の仕組みを再構築し,事業を円滑に推進していくことが肝要と思われる.
 第3に,小動物医療の分野においては,近年における急速な動物愛護思想の普及・向上とともに人と動物の絆が一層深まり,また飼育される動物の種類も多種多様となり,これに伴い診療内容もより高度なものが求められるようになった.現在日獣では卒後研修・生涯教育体制の構築整備について鋭意検討を進めているが,今後この実現に向け努力を傾注していく所存である.一方,小動物医療に対する社会の目も厳しくなり,昨年,診療過誤・過剰診療等に関し週刊誌・テレビ等のマスコミにより獣医師会批判が報道されたが,この際,日獣としては「よりよい小動物医療サービスの提供」を目指すこととして,地方獣医師会を通じ会員獣医師に対してインフォームド・コンセントを徹底させるとともに,診療料金の実態調査結果を公表する等,社会の信頼を回復する施策を講じていくことにしている.
 第4に,総理府が所管している動物の保護及び管理に関する法律について,中央省庁の改革に伴い,環境省設置法において,「野生動植物の種の保存並びに鳥獣の保護管理」に加え,「動物の保護及び人体等への侵害防止のための管理」が環境省の所掌事務とされたことから,日獣では,獣医師問題議員連盟の支援を得ながら動物保護・管理行政事務の執行体制の強化・充実を要望したところである.(これについては8月4日には,野中内閣官房長官に面会し直接要望書を提出したところである.本件については,今後共その推移を見守りながら所用の対応を図っていく等,当面の重要課題につき述べ協力を求めた.)
 平成11年度第3回理事会を8月25日ホテルフロラシオン青山で開催.新役員就任第1回目の理事会でもあり,役員紹介後,[1]業務概要,[2]動物保護管理に関する要請書を野中官房長官宛提出し,地元祝前会長も出席したので和気藹々の中で環境省に「動物保護課(仮称)」を設置し事務の円滑化を図っていただきたい旨も申し添えた.[3]地方分権に伴う狂犬病予防事業の対応,[4]学校飼育動物対応策等に関し松山専務理事から報告,続いて議案審議に入り杉山前会長を顧問委嘱,退任慰労金の件,寺内委員の委嘱及び検討課題に関する件等審議原案通り承認された.
 平成11年度事業計画の中にある「インフォームド・コンセント」徹底宣言を広く実施するために9月14日記者発表会を実施した.即ち銀座東急ホテルにおいて多数の報道関係者の参集を求め,インフォームド・コンセント徹底宣言を実施.ポスターを作製し,各獣医師に配布して広くこの趣旨徹底に努めた(関係記事は本誌第52巻第11号に掲載).

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