2)宿 主 域
  口蹄疫ウイルスに感受性の動物は57種にのぼり,そのうち偶蹄類が39種と最も多く,齧歯類も11種が含まれる.さらにそのうち自然感染で発病したものが31種,自然感染で抗体が検出されたものが8種,また以上の動物種を含めて実験的に感受性が確認されたものが23種ある[17, 69, 91].このように,口蹄疫ウイルスの宿主域はきわめて広い.野生動物の中ではアフリカ水牛など長期間キャリアーとなる野生動物もみられ,その存在は本病の防疫上問題となっている[4, 12, 48, 117].
  家畜の中では,一般に牛が最も感受性が高く,次いで豚,羊,山羊の順となる.しかし,台湾をはじめ1990年代になって東南アジア地域に流行している特定のOタイプ株は,豚に高い親和性を示し(porcinophilic strain),感染豚との同居試験でも牛は感染しないとの報告がある[42].ある流行株が特定の動物種にのみ感染しやすいという性質は,地域的にみると豚や羊において従来もみられている.たとえば,1927年には北ドイツで豚に親和性が高く,牛には感染しにくいウイルス株の流行事例が報告されている.同様に,1930年代から1940年代にかけて,英国で分離されたウイルス株のなかには,豚に親和性の高いウイルス株が認められている.また,1990年代のトルコにおける口蹄疫を臨床疫学的にみると,通常症状が顕在化しにくいといわれている小反芻獣が強い症状を示したという事例も報告されている[42](1997年口蹄疫防疫欧州委員会議事録).こうした事例は,一般の口蹄疫ウイルスの宿主域に関する考え方とは異なり,地域的にみると口蹄疫ウイルスが特定動物種に馴化することを示している.しかし,一方では流行中に抗原変異を伴って宿主域が変化,拡大することも指摘されている.事実,豚に親和性が高いという1997年の台湾株と同じOタイプが,フィリピンでは豚以外に水牛や牛にも感染した事例がある.流行株の宿主特異性は一連の流行の間でも必ずしも固定されたものではないと考えられている.
  3)伝  播
  潜伏期および発病期の感染動物は,口蹄疫が発生後蔓延する際の主要な感染源になる.特に,感染動物は病変形成前からウイルスを排出するので大きな問題となる.おもな家畜の潜伏期間は,牛6.2日,豚10.6日およびめん羊9.0日である[19].潜伏期間は感染ウイルス量が多いと短かく,少ないと長くなる傾向があり,自然例では必ずしも一定していない.各家畜はいずれも水疱形成前からウイルスを排出する.その期間は水疱が出現する前の1〜5日(牛),2〜10日(豚),0〜5日(めん羊)といわれる(Table 3).特に,豚の潜伏期間は長く,その間にウイルスを排出するので問題となる.さらに,豚のウイルス排出量は,ウイルス株により差があるが,一般に牛などの反芻獣に比較して100〜2,000倍多く,高濃度のウイルスをエアロゾルの状態で気道から排出する[37, 38, 115].