1頭の感染豚が1日に排泄するウイルス量は108ID50(ID50は感染動物が発病に要する最少感染量の推計値)を越えるが,牛,めん羊,山羊の1日ウイルス排泄量は最大でも105ID50程度である[83].一方,豚の最少有効感染量(経気道感染で102.6ID50,経口感染で105.0ID50)は,牛のそれ(経気道感染で101.0ID50に比較して,より多量のウイルス量が必要とされる[35, 39, 40, 56, 110, 117].このことから,口蹄疫ウイルスの感染疫学において,牛をdetector(検出動物),豚をamplifier(増幅動物)とみなす概念がある[68].このように,豚は本病の蔓延にきわめて重要な役割を果たしている.豚の飼養密度が高い地域に発生すると,地域のウイルス汚染度が高まり,空気伝播や風による伝播が起こりやすくなって,防疫が困難になるとの指摘がある[76].このほか,発病動物の口や蹄に形成される水疱や乳汁にも多量のウイルスが含まれ,糞尿にもウイルスが排出される.感染動物が排出したウイルスは畜舎や農場内を汚染し,直接あるいは間接的な接触伝播を起こす.牛乳には水疱形成の平均4日前からウイルスが排出されるため,潜伏期に搾乳した牛乳は口蹄疫の汚染源になり得る.潜伏期の牛乳のウイルス量は106.6TCID50/mlにのぼり,その0.1mlで豚が経口感染するために必要十分なウイルス量を含んでいる[20, 35].現在通常実施されているHTSTやUHTによる牛乳の滅菌方法は口蹄疫ウイルスを完全には不活化しない[15, 25, 35].このため,口蹄疫が発生した際に大量に生じる汚染牛乳の処分方法が問題になる.犬,猫,鶏,ネズミ,野鳥などの非感受性動物による機械的伝播,汚染された飼育器具,機材,飼料,人,車両などを介した間接的な伝播も多い(Table 3).