この処置法の問題点としては[4, 22],処置牛のうち,何頭か(<10%)はPGF投与時に発情期にある,種々の割合(〜17%まで)でPGF投与時にプロジェステロン濃度の低い牛がいる,15%までの牛がPGF投与後2日でもプロジェステロン濃度が高い,人工授精時に発情を示しているのは,全体の79%の牛である,5〜10%の牛が無発情である,などがあげられる.
  本処置後の定時人工授精での受胎率は,対照群と同じ30%である[6].本処置による反応の有無は,投与牛の卵胞波の交代時期(ダイナミックス)に依存している.
  3)プロジェステロン処置
  発情を制御するためのプロジェステロン処置はLHパルス頻度を抑制し,血中プロジェステロン濃度が高い間は発情や排卵を抑制する.しかし,長期間のプロジェステロン処置(12日以上)は,その後の発情開始時期がより集中化する反面,受胎率は低下する[33].
  近年の処置法は,プロジェステロンとともにエストロジェンやGnRHアナログを処置開始時に投与し,卵胞波のステージを同調している.
  (1) 処 置 法
  a)腟内挿入型:プロジェステロンをシリコン器具に染み込ませたものを使う.現在,2つの製剤が商品化されている.
  PRID―progesterone releasing intravaginal device(Sanofi Ltd, France) CIDR―controlled internal drug release device(InterAg, New Zealand)
  最初,黄体期に類似した急速なプロジェステロン濃度の上昇が3〜5日間あり,その後徐々に減少し,黄体期の半分程度の濃度(〜2ng/ml)を9〜12日間の処置期間中維持する[20].
  b)皮下移植型:ノルジェストメット(norgestomet; Crestar, Intervet Ltd, Netherlands)の小さいインプラントを耳根部皮下に移植する.
  (2) 処置期間
  同期化された発情期の授精による正常な受胎率を維持するため,処置期間は最大限12日を超えてはならない.8日以上存続した優性卵胞は受精不能,あるいは老化した卵子を排卵し,このため発情の同期化は得られるものの,受胎率が低下する[24].プロジェステロン処置で同期化した牛でも,存続期間が5日以下の優性卵胞は,良好な受胎率を示している[2].現在では,処置期間を8〜10日に短縮する傾向にあるが,GnRHを利用する時でも最低7日間のプロジェステロン処置は必要である[35].
  (3) 黄体退行作用の製剤
  a)エストラジオールの利用:本剤の黄体退行作用は弱く,わずかに黄体期の初期(発情周期の1〜4日)の投与で,発情周期を短縮するのに有効である.エストラジオール10mgのカプセルは,PRIDやCIDRに利用され,血中エストラジオール濃度を2〜3日間,3〜4 pg/mlの高値に維持する.エストラジオールは部分的で,遅延型の黄体退行作用があり,高い受胎率を維持しながら確実な発情を起こすためには,処置期間を長くする必要がある.現在,プロジェステロン処置期間の最長は,プロジェステロンとエストラジオールカプセルの腟内挿入で12日間,ノルジェストメット耳根部挿入で10日間とされる.
  b)PGFの利用:プロジェステロンやノルジェストメット処置終了時,あるいは1〜2日前にPGFを注射することにより,処置の期間を7〜10日間に短縮できる[35].しかし,PGF投与まで,プロジェステロン処置を最低6〜7日間は行う必要があり,そのことにより卵巣に存在するすべての黄体はPGFに反応するようになる.