馬伝染性子宮炎(届出)
概要
 本症は、馬科動物に特有の性行為感染症です。原因は馬伝染性子宮炎菌で、世界各国およびわが国で発生し、届出伝染病に指定されています。交尾により感染した雌馬は子宮炎を発症し、子宮滲出液を排出して治癒するまで不妊となります。
主な原因
 本症は、馬伝染性子宮炎菌の感染によって起こる馬科動物に特有の性行為感染症です。子宮炎を発症した雌馬は、治癒するまでは交尾しても受胎しません。このように、本来の感染は交尾によって起こりますが、サラブレッドなどの交尾時に人が関与する馬の場合は、人の手指や器具などを介して間接的に菌が伝播することもあります。
 わが国では、1980年に北海道の日高および胆振地方の競走馬生産牧場で最初の流行が確認されました。その後は今日に至るまでほぼ毎年発生していますが、最近になって新しい診断法を用いた自衛防疫により清浄化が進行しています。
主な症状
 交尾時に種雄馬の陰茎に保菌されている本菌が子宮外口から子宮内に侵入し、子宮粘膜に定着・増殖して子宮炎を起こします。感染した雌馬の子宮外口には充血と浮腫がみられ、子宮からは滲出液が排出されます。また、早期発情を繰り返し、子宮炎が治癒するまでは交尾しても受胎しません。
 本菌の感染は子宮粘膜表面にほぼ限られており、発熱などの全身症状もみられません。一方、雌馬の陰核や雄馬の陰茎は本菌の長期保菌部位です。保菌馬は症状を示しません。雌馬でも陰核に菌を保菌するだけの場合は無症状であり、雄馬はいかなる場合も無症状です。
主な予防法
 本症に対するワクチンはなく、感染を予防するには、交尾前の菌検査が必要です。感染馬の治療はゲンタマイシンやセファロチンなどの抗菌剤を子宮内へ注入する方法が一般的であり、高い効果が認められています。一方、本症の蔓延を防ぐためには保菌馬の摘発とその治療が重要です。保菌している雄馬の場合は、消毒薬を用いた洗浄により尿道洞や包皮の垢を物理的に除いた後にゲンタマイシン軟膏を塗布する治療を数回繰り返します。雌馬の治療は、雄馬に準じた方法に加えて、陰核洞を含む陰核亀頭の上半分を手術により切除します。