トリパノソーマ病(届出・海外)
概要
 本病は、トリパノソーマ原虫による局所および皮膚の病変、貧血、発熱、神経麻痺などを主徴とする原虫病です。馬では、他の動物と異なり、交尾感染を起こします。本病は届出伝染病・海外伝染病に指定されています。
主な原因
 トリパノソーマ原虫が馬に感染して起こる主な疾病として、交疫、ナガナ、ズルラ、カデラ、ムリナなどが知られています。
 交疫は、交尾感染により伝播しますが、吸血昆虫による媒介も無視できません。ほぼ全世界的に認められますが、最近は馬での発生例はありません。米国では一度撲滅したと考えられていましたが、野生馬が原因となって再発生が起きており、安心はできません。ナガナは、媒介昆虫であるツェツェバエが分布しているアフリカ大陸の北緯15°〜25°に分布しています。ズルラは、サシバエによっても伝播され、東南アジアに常在します。
主な症状
 最近までは病名として「媾疫」が使用されていた交疫:馬だけにみられる、交尾感染による慢性疾病です。感染初期は、陰唇および膣粘膜の腫脹と粘稠性の無色ないし黄色の滲出液の分泌があります。雄馬では、包皮、陰茎および精巣の腫脹がみられます。発熱は中等度であり、食欲に変化はありません。感染後、1〜2ヵ月で皮膚に特有の蕁麻疹様の円形丘疹すなわち硬貨斑が現れます。この丘疹には、かゆみがあり、湿疹に次いで痂皮形成あるいは脱毛を起こします。粘膜面には潰瘍が形成され、傷あとは白斑を呈します。頻尿と流産が起こります。貧血があり、著しくやせてきます。最終的には、口唇、眼瞼などに現れる顔面神経麻痺と、運動神経麻痺が起こり、死亡します。

 ナガナ:多くの動物が感受性を示しますが、馬が最も強い症状を示します。症状は、弛張熱、頸部・下腹部・陰嚢の浮腫、貧血、流涙、鼻汁漏出などです。食欲が正常のまま衰弱し、筋肉は萎縮・退化し、最後は麻痺を呈して死亡します。脾臓が著しく肥大し、心嚢液の貯留も多くみられます。

 ズルラ:多くの動物が感受性を示しますが、馬では急性症状を呈します。感染直後から腹部に熱感のある浮腫が発生します。浮腫は、四肢にも発生します。発熱は、短期間に認められ、回帰熱を示します。顕著な貧血、粘膜の点状出血、栄養障害、体表の蕁麻疹様発疹、後躯麻痺などを呈し、感染1ヵ月で筋無力、歩様蹌踉となり、死亡します。急性症状のまま死亡することもあります。

 その他のトリパノソーマ病:カデラの症状は、やせ、衰弱、結膜炎、弛張熱、浮腫および後躯麻痺で、1〜5ヵ月で死亡します。ムリナの症状は、不整な発熱、やせ、貧血、軽度の黄疸、衰弱、下肢および下腹部の浮腫などで、数週間から数ヵ月で死亡します。吸血コウモリによる伝播が重要です。
主な予防法
 ワクチンや免疫療法用の血清などは開発されていません。
 治療法としては、尿素誘導体、砒素剤、アンチモン剤などが有効であるとされていますが、馬の場合には淘汰することが最も重要とされています。
 わが国のように本病の発生を経験していない国では輸入検疫が重要です。トリパノソーマの種類によっては、馬には強い症状を示すものの、ほかの動物には症状を示さなかったり、症状が弱いことも多いので、注意が必要です。