アナプラズマ病(一部法定)
概要
 本病は、リケッチアの一種であるアナプラズマが赤血球内に寄生して生じる貧血および黄疸を主徴とし、呼吸器系の異常、すなわち呼吸困難、呼吸促迫などを呈します。ダニなどの吸血昆虫が媒介する疾病の一つで、牛、水牛、しか、めん羊、山羊などの反芻動物が自然宿主となります。アナプラズマ マージナーレによるしかのアナプラズマ病は法定伝染病として取り扱われています。
主な原因
 アナプラズマは、牛寄生のアナプラズマ マージナーレ、アナプラズマ セントラーレ、アナプラズマ カウダトゥムの3種とめん羊・山羊寄生のアナプラズマ オビス、アナプラズマ メアセアエタラムの2種が確認されています。アナプラズマ オビスは、めん羊と山羊いずれにも感染しますが、特に山羊に強い感染性を持っています。アナプラズマ メアセアエタラムは、めん羊と山羊のいずれにも感染しますが、通常、めん羊で高い寄生率を示します。
 アナプラズマは主に熱帯および亜熱帯に分布しており、わが国では、アナプラズマ マージナーレが沖縄県内に、アナプラズマ セントラーレは全国的に分布しています。前者は後者に比べて強い病原性を持っています。めん羊と山羊に寄生するアナプラズマ オビスによる発症例は少ないのですが、しかに感染します。汚染地では幼畜期に感染・耐過する場合が多く、重症化する症例は少ないです。しかし、抵抗性は加齢に伴って低下するため、成畜では強い症状を示すことがあります。また、アナプラズマは、ダニ、アブ、サシバエ、蚊などの吸血昆虫によって機械的に媒介されるため、ピロプラズマなど他の住血原虫との混合感染がしばしばみられます。一部のダニでは体内で増殖し、卵を介して次代のダニも感染源となります。また、輸血や汚染された注射器、去勢器具、除角器などによっても伝播します。
主な症状
 アナプラズマ マージナーレの潜伏期は20〜40日で、稽留熱と呼ばれる40〜42℃の高熱の長期間持続、元気消失、貧血、黄疸などがみられます。また、脱水、便秘、心悸亢進、呼吸促迫などもみられます。幼畜よりも成畜で感受性が高く、発症後2〜3日で死亡することもあります。初感染の死亡率は20〜50%とされています。慢性経過をとるものは貧血と黄疸が持続し徐々にやせてきます。アナプラズマ セントラーレ感染による症状も基本的には同じですが、単独感染では症状が軽いため、貧血や黄疸を発見するのは困難で、死亡することはありません。アナプラズマ オビスおよびアナプラズマ メアセアエタラム感染例では症状はほとんど発現しませんが、アフリカ、ヨーロッパ、ロシア、中央アジアおよび米国でめん羊と山羊に発生が報告されています。
 アナプラズマによる黒褐色の尿である血色素尿はみられません。
主な予防法
 化学療法としてはクロルテトラサイクリン系の薬剤が有効ですが、感染のピークを過ぎると効果は低下します。対症療法はピロプラズマ病の貧血に対する療法と同様であり、輸液や強肝剤、栄養剤などを応用しますが、特に輸血は貧血の改善にきわめて有効です。
 本病に対する完全な予防法はありませんが、ピロプラズマ病と同様、媒介ダニの駆除を目的に、低毒性有機リン剤などのダストバッグの応用、イベルメクチン製剤の定期的投与、ピレスロイド系殺虫剤を含有したイヤータッグの装着などを行います。また、放牧初期のストレス軽減を目的とした予備放牧も重要です。海外の高度汚染地域ではワクチンなどによる免疫の賦与も応用されていますが、常に発症や伝播の危険性を伴います。