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解答と解説
質問1に対する解答と解説:
症例1及び症例2ともに,主症状は『嘔吐』です.通常は,この症状より上腹部の異常を疑います.口腔・咽喉頭・食道部の異常を確認,否定した後,胃腸管部確認のため腹部単純X線検査を行いました.
それぞれの読影所見としては,
症例1:ラテラル像,VD像ともに胃体―幽門―十二指腸部にガス貯留が認められます.その他小腸(空回腸)―大腸部に大きな異常は認められません.
症例2:全体的に大きな異常は認められません.
ここで各症例における嘔吐の様子の違いに着目します.症例1では,突然始まった食事の前後に関係ない嘔吐(急性嘔吐)であり,腹部単純X線所見からも胃―十二指腸部の通過障害が疑われます.嘔吐を伴う腹部障害の鑑別診断として,炎症性または閉塞性胃腸疾患,膵炎,肝疾患,腎疾患などが考えられますが,白血球数増加以外の血液検査所見に異常が認められないことから,急性の炎症性または閉塞性(異物等)胃腸疾患がこの時点では強く疑えます.一方,症例2では,1カ月以上継続している慢性の嘔吐であり,嘔吐の様子が食事の摂取直後の未消化物の嘔吐です.腹部単純X線所見では大きな異常は認められず,さらに詳細に問診を行ったところ,嘔吐時にはそれに先立つ流涎や空えづきがなく,急に嘔吐する突出性嘔吐であることが判明しました.鑑別診断としては,胃流出路閉塞(幽門閉塞・狭窄,肥厚性胃炎),慢性胃腸炎,異物などが考えられます.
いずれの症例も確定診断のため,さらなる上腹部を中心とした臨床検査が必要です.経時的な腹部陽性造影X線検査,腹部超音波検査や全身麻酔が必要となりますが,直接的に胃や上位小腸を観察する内視鏡検査,CT検査などが有用であると考えられます.

質問2に対する解答と解説:
両症例ともに異物摂取による胃腸の通過障害が鑑別診断として残っています.腹部単純X線所見では,明らかなX線不透過性異物の存在は認められません.そこで両症例に対して,バリウム経口投与による腹部陽性造影X線検査を行いました.
症例1:投与15分(図3左)では,バリウムは小腸部に流出していますが,ラテラル,VD像ともに胃体―幽門部にバリウムが残存しています.投与5時間(図3右)では,バリウムの大部分が大腸部まで到達していますが,依然として胃体―幽門部にバリウムが残存しています.バリウムの胃通過時間は,症例の状態により個体差はありますが,5時間経過後に胃内にバリウムが残存しているのは明らかな異常所見です.症例1は,胃内(胃体―幽門部)異物による閉塞と診断しました.
症例2:投与15分(図4左)では,投与されたバリウムすべてが胃内に残存し,小腸部への流入が認められません(症例1の15分と比較参照して下さい).投与5時間(図4中)でも,胃体―幽門部に少量のバリウムが残り,投与6時間(図4右)でようやく胃内のバリウムがすべてなくなっています.小腸―大腸の通過に異常は認められません.したがって,バリウムの胃通過時間の大幅な延長所見があり,症例2は,胃の流出路障害と診断しました.胃流出路障害とは主に胃幽門部異常に起因し,幽門狭窄(慢性肥大性幽門胃疾患,CHPG)が強く疑われます.

質問3に対する解答と解説:
症例1の胃内異物除去に関しては,異物の種類,材質,大きさなどにより強制的嘔吐,排便による排出などの治療処置を行うことがありますが,異物そのものには関係なく,完全摘出を目的とすれば,内視鏡または胃切開による摘出が望まれます(内視鏡操作・胃切開術の詳細は成書を参照して下さい).症例1では,試験開腹による異物の存在確認と胃切開による摘出が行われ,幽門部―十二指腸上部を完全に閉塞していた圧縮硬化したタオルが摘出されました(図5).
症例2の幽門狭窄に対する治療に関しては,通常,外科的治療が奨励されます.外科的治療には,幽門筋層切開術や幽門形成術が成書に記載されています(成書参照).しかし,これらの幽門に対する処置では,一時的な回復や無効な症例も経験しているため,私たちは,自動吻合器(GIA,USサージカル社,CT)を用いた胃―空腸バイパス術(図6)を好んで行っています.また,これらの外科手術を行う場合には,幽門部の腫瘍を確認するため組織生検が必要です.症例2では,残念ながら手術の同意が得られなかったので外科的治療を行わず,胃・腸管運動改善薬(メトクロプラミドなど)投与や半液体状の食事を少量頻回に与えるなどして経過観察を行っています.





キーワード:鑑別診断,胃内異物,胃切開,陽性造影X線検査,幽門狭窄

 
※次号は,産業動物編の予定です
 

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