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解答と解説
質問1に対する解答と解説:
 多尿は通常の尿量(25〜35ml/kg/day)の約1.5倍以上,多飲は通常の飲水量(50〜70ml/kg/day)の約1.5倍以上の場合を示す.多飲・多尿を示す場合には生理的:飲水量の増加,運動量,環境温度,餌の内容(低蛋白食),塩分摂取など,薬物投与:利尿剤,輸液,塩分投与など,病的:尿崩症,糖尿病,副腎皮質機能亢進症,肝疾患,腎不全,子宮蓄膿症,腎炎,高カルシウム血症,甲状腺機能亢進症,腎性糖尿などを考慮する必要があります.
 したがって,問診の情報(1)〜(14)の内,(1)初発時期ならびに持続期間,(3)症状の変化,(4)治療経過(投薬歴),(9)繁殖歴,発情,(10)餌の内容,給餌状況,(11)飼育環境,(12)同時飼育動物の状況,(13)食欲,(14)飲水量などに留意します.
質問2に対する解答と解説:
 診断にどの事項が有用かを選択すると(1)〜(14)の内,(2)血液検査,(3)血液化学検査,(13)X線検査の項目に留意する必要があり,その結果は以下のとおりです.
血液検査(CBC)
RBC 6.01×106/μl WBC 14.5×103/μl
Hb 15g/dl Neut 11.1×103/μl(76%)
PCV 40.8% Band Neut 0.3×103/μl(2%)
MCV 67.9mm3 Lympho 1.5×103/μl(10%)
MCH 25pg Mono 1.7×103/μl(12%)
MCHC 36.5% Eosino 0
血液化学検査
BUN 23mg/dl CK 237U/l
Creatinine 1.1mg/dl Na 147mEq/l
Glucose 113mg/dl K 4.5mEq/l
Cholesterol 278mg/dl Cl 110mEq/l
T. Bilirubin 0.18mg/dl Ca 9.3mEq/l
Amylase 922U/l P 6.5mEq/l
ALP 839U/l    
AST 42U/l T. Protein 7.1g/dl
ALT 63U/l Albumin 2.8g/dl
GGT 4U/l Globulins 4.3g/dl
X線検査
胸部単純X線――――異常をみとめず
腹部単純X線――――軽度肝腫大

質問3に対する解答と解説:
 以上の点から診断をおしすすめていくには,まず問診で生理的ならびに薬物投与による多飲・多尿が除外可能である(運動量,環境温度,餌の内容(低蛋白食),塩分摂取,利尿剤,輸液など).血液化学検査結果から糖尿病,腎不全,腎炎,高カルシウム血症,腎性糖尿などが除外可能で,さらにX線検査結果,血液検査結果から子宮蓄膿症が除外できます.
 したがって,推測できる疾患は,副腎皮質機能亢進症,肝疾患,甲状腺機能亢進症などとの鑑別が必要となりますが,ALP,Cholesterolの高値から副腎皮質機能亢進症が強く疑われます.
 そこで,追加を必要とする検査項目(1)〜(14)の内で選択を必要する検査は(7)内分泌検査,(9)超音波検査,(14)CT,MRIで,その結果は以下のとおりでした.
質問3:以上の検査結果から,どのような疾患が推測でき,追加の検査には何が必要と思われますか?
内分泌検査
 ACTH刺激試験:
Pre
140nmol/l
Post
860nmol/l
 Dexamethasone抑制試験(低濃度)
Pre
100nmol/l
Post(8h)
54nmol/l
 Dexamethasone抑制試験(高濃度)
Pre
115nmol/l
Post(8h)
35nmol/l
 ACTH濃度   20.2pmol/l
 T4濃度   14nmol/l
超音波検査:副腎腫大(写真1)

(写真1)
超音波検査(腹部):肥大した副腎が認められる
1 腎臓  2 副腎
(写真2)
(写真3)
腹部CT
頭部CT
CT,MRI:腹部CT(両側副腎腫大,軽度肝腫大)(写真2),頭部CT(下垂体腫大)(写真3)
 ACTH刺激試験における過剰反応,デキサメタゾン抑制試験(高濃度)における抑制,ACTHの相対的高値から下垂体性副腎皮質機能亢進症が診断可能で,さらに超音波検査,腹部ならびに頭部CT検査結果からも本疾患が確定されます.
  多飲・多尿を呈する疾患に遭遇した場合,基本的に以下のような診断手順を参考にしてください.
 
 
※次号は,産業動物編の予定です