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意見(獣医学系大学生の声)

夢に向かって

二井綾子(北里大学獣医学部獣医学科2年)

 幼い頃,行政の動物処分施設に持ち込まれる多くの犬・猫の存在に衝撃を受けた.その一方で犬や猫が店頭販売される現状があり,命が無駄に奪われる社会に強い疑問を抱いた.このことは,今でも私の信じる正しい動物との関わり方へと自分自身を動かす一つの原動力になっている.
 私はこの春に北里大学獣医学科に学士編入学する前に日本大学動物資源科学科に所属し,二つのことを学ぶことに努めていた.一つは,動物と人を取り巻く社会環境である.心の相互作用や畜産物利用など,人と動物との様々な関係がある中,その現状や,問題点,これからの可能性などを体系的に学習した.卒業研究では,飼育環境が動物に及ぼす影響の大きさをテーマに,牛の蹄を採り上げた.削蹄の仕方だけで蹄病や運動器疾患を防いで,生産効率を上げられることや,逆に飼育環境劣化や削蹄次第では蹄病を作ることもわかり,体を支える肢の重要さを学んだ.
 もう一つは,教育である.動物の命が安易に扱われる社会を変えるためには,人々の生き物に対する関心を高める必要があるのではないか,特に子供達に生命の尊さや動物との関わり方を教えていくことが,生き物との関わりを考えさせるのに有効ではないかと考えた.そのため教職課程を履修し,どのように伝え・理解させていくのかを学び,「命を大切にしたい,動物と楽しく生活したい」という気持ちを育む方法を模索していた.
 しかしながら,それだけでは物足りなさを感じることが多くあった.例えば,推定50%未満と言われる狂犬病予防接種率の問題や,ペットの飼育放棄・放逐(不法投棄)問題.これらに対して,多くの人に関心を持ってもらい「なぜ予防が必要なのか」「安易な放逐により何が起こり,どのように危険なのか」を理解してもらうには,私が学んできた社会学や教育学に加え,人と動物の共通感染症や異種動物間の疾病など,動物医療や感染症に関する知識と技術が不可欠だと感じた.獣医学の知識も加わってはじめて,人と動物が安全に暮らせ,双方にとってより良い社会を探ることが出来ると考えた.
 また単純に,目の前で苦しんでいる動物に対し,何も出来ない自分が悔しいという気持ちもあった.苦しんでいる動物の体で何が起こっているのか理解できるようになりたい.そして,少しでも苦しみを和らげることの出来る存在になりたいと強く思うようになり,獣医学科への編入学を決めた.
 まだ獣医学を学びだしたばかりであるが,全ての授業が動物を救うことにつながっていると意識でき,意欲的かつ楽しく学んでいる.また,部活での野生動物調査など日々の授業以外のことにも積極的に取り組んで行きたいと思っている.そして様々な学会に参加し多くの人の意見に耳を傾け,様々な考え方を柔軟に取り入れることによって自分の視野をさらに広げていきたいと考えている.
 長期休みには,獣医師の関わる職場を自らの足でまわり,将来の進路を考える糧にしたいと考え,この夏も動物園に飼育実習をさせていただいた.これまでは単に見る側として,様々な動物園を見てきたが,教育の視点から地方の動物園(哺乳類4種・鳥類8種の小さな所)から大きな動物園(546種を飼育している所),特殊な動物園(70種を世界の気候帯・地域別に展示している所)など様々なタイプの動物園を訪ねてみると,動物の姿自体の見やすさの違いや生態・生息地に対する教育への影響などそれぞれの利点・欠点を考えさせられた.また,中国のパンダ保護センターでは地形を上手く利用し保護・繁殖をしながらも,人に見せる工夫がなされていると感じた.そして今回の実習では,飼育側としての視点から動物の管理方法,衛生面による配置などを知ることができた.このようなことから,獣医師は動物の保護・治療・検疫・環境・研究など,様々な視点から見なければならないと感じた.
 学生という限られた時間を有意義に過ごし,あらゆる角度から物事を捉え行動できる獣医師に成長したい.そして将来,人と動物が「共存共栄」できる社会の柱となること.それが私の目標である.




† 連絡責任者(担当教官): 伊藤伸彦(北里大学獣医学部)
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