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地方会だより

栃木県におけるマイクロチップ普及推進事業

岩上一紘 (栃木県獣医師会会長)

岩上一紘
 1 は じ め に
 栃木県獣医師会では,平成20年6月1日より栃木県内の犬へのマイクロチップ(以下チップ)装着を目的にマイクロチップ普及推進事業を開始した.その概要を紹介させていただきたい.

 2 栃木県における取り組みの経過
 平成7〜8年頃より,チップの犬への装着が,新聞や情報紙等に,少しずつ話題記事として掲載されるようになってきた.日本獣医師会でもその事業化について検討に入っているとの情報,愛知県獣医師会や大阪市獣医師会等の一部で実施が始まっていること等を聞き及んでいた.栃木県獣医師会の内部でも,会長,常務理事が中心となってチップの性能,安全性,価格及び実施の方法等について検討してきた.しかしながら,日本獣医師会の方針が決定されていないこと,登録会社が2社ありデータベースの統一がなされていないこと,行政の理解が得られず協力が求められないこと等の理由により,有用性及び将来必要となることは認めながらも,チップを積極的に推進する時期ではないとの結論であった.
 平成11年12月に,昭和48年9月に制定された「動物の保護及び管理に関する法律」が「動物の愛護及び管理に関する法律」(動愛法)に改正され,この中で5年後に法の見直しを図ることが付帯決議され,個体識別について検討がなされることとなった.平成14年5月には環境省告示の中で所有者を明示する方法としてチップ装着の文言が記され,同年12月,動物ID普及推進会議(AIPO)が(財)日本動物愛護協会,(社)日本動物福祉協会,(社)日本愛玩動物協会,(社)日本動物保護管理協会及び, (社)日本獣医師会で結成され,チップによる動物個体識別の普及推進とデータの管理を行うことが決まった.平成16年10月,犬等の輸入検疫規則の中で狂犬病侵入防止を目的として輸入犬へのチップの埋め込みが義務づけられた.平成17年4月には外来生物法において,特定外来生物に指定されている哺乳類及び爬虫類を飼育等する場合は個体識別措置が義務化され,同年6月,動愛法改正の中で個体識別措置及び特定動物の飼養等規制の全国一律化が明記された.これにより,県獣医師会として社会の体制が整いつつあると判断し,チップ装着・実施について具体的検討に入ったのである.まず実施にあたっては,行政の協力体制が不可欠なことが第一であった.なぜならば,市民により保護されたり捕獲された飼育者不明犬,交通事故等により負傷した犬は,県の動物愛護センターないしは中核市である宇都宮保健所に通報,搬入される.従って,そこでのチップの読み取りをすることが必須条件なのである.この行政との協力体制が確立していないと,装着していてもチップの機能が発揮できないので,飼養者と装着犬に対して詐欺的行為になってしまう.この様な法整備が進行する中で,一般市民からもチップの問い合わせが獣医師会に入る様になってきた.それは海外赴任する方々からもあったが,犬の保険加入の際の割引制度,阪神淡路大震災以後続く災害での迷子犬捜査の経験から,自らの家族としての動物に対する意識が急速に高まったことも背景にあるようである.そんな中で,平成16年12月に本県の中核市である宇都宮市との強い絆を築いていた宇都宮支部長を始めとする会員の宇都宮保健所の方々に対する熱意ある説明により,市民生活を第一に考え,前例のない本事業の実施に対して同意と協力をしていただけることになり,宇都宮市においてチップ装着事業が開始された.チップの実施は,実際に犬を扱う方々にとっては現場での作業が一つ増えることになる.関係者の皆様には,その辺の調整に御協力,御苦労をおかけした事を大変感謝している.平成17年3月に,まず実施にあたり,宇都宮支部の獣医師には,チップの意義,技術的な事等についてチップ製造メーカーに依頼し講習会を開催した.また,行政にはリーダーの貸与,各獣医師には一台ずつリーダーを配布した.宇都宮市での取り組みが迷子犬の発見等に貢献し,社会的に話題となることにより,県及び他の市町村での実施普及に際してモデルケースとなること,またこれを通じて動物と強い絆が築かれ飼育に責任と愛情を持てるようになりひいては社会に責任を持つ市民が育つことを期待した.
 平成20年3月,栃木県は「動愛法」の指針に基づき「栃木県動物愛護管理推進計画」を策定した.獣医師も積極的に参加する「同推進会議」において,適正飼養の推進,迷惑問題の防止,そして所有者明示措置の推進,すなわちチップ装着率の向上に取り組み推進することが決定された.そこで県獣は,設立の理念に合致する事業として,宇都宮市での実施にも自信を得て,全県下にてチップ装着事業を実施することを決定した(図 マイクロチップ装着の流れ).この実施にあたっては,県市町等の行政,警察へも周知徹底を計り,その読み取り行為は無償で行うことを確認した.いくつかの支部では,市町へリーダーの提供も行われている.

図 栃木県獣医師会マイクロチップ登録促進事業に係るマイクロチップ装着の流れ

図 栃木県獣医師会マイクロチップ登録促進事業に係るマイクロチップ装着の流れ


 3 今後の課題
 本県の取り組みは始まったばかりであるが,当面の課題を列挙してみた.
 (1)獣医師会が主にすべきこと
 ア マイクロチップに関する説明
 有用性,信頼性,装着方法,迷子時の発見方法,全体的な個体識別方法のPR
 イ 獣医師自身の熱意
 ウ 飼養者には動物を飼うことに対して責任を負うことの自覚を与え,不幸な動物を一頭でも少なくしようという意気込み
(2)行政に望むこと
 ア 財政的な配慮
 イ チップ有用性,必要性等のPR
 ウ 法律的な発展的うらづけ
 (3)畜犬団体への働きかけ
 動物の離乳時,登録時,販売時での装着の推進
 (4)日本獣医師会に望むこと
 チップ有用性は地域が広いほど高まるので,積極的な推進,及び1〜3についての政治的及び道義的な働きかけ
 以上,本県の取り組みについて御報告するところであるが,不備な点も多く,今後様々な問題も出てくるものと思われる.関係各位の御協力,御助言を賜り,この事業の発展に努めたいと思う.




† 連絡責任者: 岩上一紘((社)栃木県獣医師会)
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