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解説・報告

愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律の概要

山田裕典 (農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課課長補佐)

山田裕典
 1 は じ め に
 本年6月11日,第169回国会において,「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律案」が可決・成立し,同月18日に公布された(平成20年法律第83号).本稿では,愛がん動物用飼料(ペットフード)の安全性に関する規制を行う我が国初の法律である本法についてその概要を説明する.

 2 法律制定の経緯
 現在,愛がん動物(ペット)は国民生活にとって,家族同様とも考えられるような重要な存在である.そのようなペットが食べるペットフードの安全性については,これまでも強い関心が持たれていたところである.
 昨年春,米国において,メラミン(食器等に利用されるメラミン樹脂の主原料となる有機化合物)の混入した中国産原料を使用して製造されたペットフードが原因とされる大規模な犬・猫の健康被害が発生した.FDA(米国食品医薬品局)への報告によると,犬,猫それぞれ約2,000頭が被害にあったとのことである.メラミンを含む製品はメーカーにより回収されたが,この件は日本国内においても広く報道され,ペットを飼育する方々の間に,ペットフードの安全性に対する不安が高まった.
 この件に対する我が国の対応として,農林水産省から飼料関係及びペットフード関係団体に対して,注意喚起のための情報提供を行ったところである.そのような中,同年6月,日本国内に並行輸入され,一部の店舗で販売されていたペットフードに,米国で回収対象となっていた製品が含まれていたことが判明し,販売業者が自主的な回収を行った.なお,当該製品に起因する国内の健康被害事例は報告されていない.
 この事案を受けて,農林水産省は,ペットフードの製造・輸入・流通関係団体に対して,製品の輸入・販売に当たっては,米国における回収対象品でないことの確認を促す通知を発出し,同様に消費者団体にも情報提供を行った.
 この当時,中国における輸入食品等の安全性に対する国民の不安が高まり,政府に対応が求められていたこともあり,これら一連の事案を受けて,ペットフードの安全性についても国民の関心がさらに高まった.

 3 ペットフードの安全性の確保のための方策について
 これまで,我が国において,ペットフードを対象とする法律としては,「不当景品類及び不当表示防止法」等があったが,これは様々な製品全般の表示について規制を課す法律であり,ペットフードの安全性を法目的とする法律は存在しなかった.このため,政府内で,ペットフードの安全性について規制する法律を制定する必要性が議論された.
 同年8月には,農林水産省及び環境省において,飼養者,獣医師,弁護士,消費者団体,製造業者,地方自治体職員等の有識者から構成される研究会(「ペットフードの安全確保に関する研究会」)を設置し,ペットフードの安全性を確保するための方策について幅広く議論していただいた.研究会では5回にわたって議論が行われ,ペットフードをめぐる現状報告,製造メーカー,表示関係団体等からのヒアリング,工場視察等を行い,それを基に活発な議論が行われ,同年11月,ペットフードの安全確保上の課題と対応のあり方についてのとりまとめが公表された.
 とりまとめにおいては,基本的な考え方として,動物愛護の観点からペットフードの安全確保は緊急に取り組むべき課題であることが示された.さらに,業界の自主的な取組及び行政との関係として,製品の安全性を確保する上で,事業者及び民間団体の自主的な取組が重要であり,行政として民間の自主的な取組を推進すべきとされた.
 その一方で,自主的取組には強制力がなく,すべての事業者の取組を担保できないこと,予期せぬ事故等に対し緊急に実効性のある対策が打てない可能性があることから,法規制の導入が必要と明記された.
 これを受けて,農林水産省及び環境省が共同で,ペットフードの安全性を確保するための具体的な法制度の検討を行った.

 4 ペットフードの安全性を確保するための法制度及び国会審議について
 農林水産省及び環境省では,政府部内での調整を踏まえ,目的を「動物愛護に寄与すること」とし,規制のスキームは,家畜用飼料の安全性について規制を行う「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律(飼料安全法)」を基にした新法を制定することとした.
 新法案は「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律案」として,本年3月4日に閣議決定され,国会に提出された.第169回国会は,いわゆるねじれ国会であったが,本法案は,与野党に関わらず賛成の意見をいただき,参議院(環境委員会)及び衆議院(環境委員会)において全会一致で可決された.

 5 法律の概要
 本法の概要は,以下のとおりである.(参考1 :制度の概要,参考2 :条文)
(1)愛がん動物用飼料の基準・規格の設定と,それらに合わない愛がん動物用飼料の製造等の禁止(第5条,第6条)
 農林水産大臣及び環境大臣は,愛がん動物用飼料の製造の方法,表示についての基準や,成分についての規格を定めることができる.また,当該基準・規格に合わない愛がん動物用飼料の製造,輸入又は販売を禁止する.
(2)有害な物質を含む愛がん動物用飼料の製造等の禁止(第7条)
 農林水産大臣及び環境大臣は,有害な物質を含み,または病原微生物により汚染された愛がん動物用飼料(それぞれ,その疑いがある場合を含む.)の製造,輸入,販売を禁止することができる.
(3)愛がん動物用飼料の廃棄等の命令(第8条)
 農林水産大臣及び環境大臣は,(1)及び(2)の愛がん動物用飼料が販売等された場合,当該愛がん動物用飼料の製造業者,輸入業者又は販売業者に対して,廃棄,回収等の命令をすることができる.
(4)製造業者等の届出(第9条)
 (1)の基準又は規格が定められた愛がん動物用飼料の製造業者又は輸入業者は,農林水産大臣及び環境大臣に,氏名及び住所等の事項を届け出なければならない.
(5)帳簿の届出(第10条)
 (1)の基準又は規格が定められた愛がん動物用飼料の製造業者,輸入業者又は販売業者は,販売等をした愛がん動物用飼料の名称,数量等の事項を帳簿に記載しなければならない.
(6)報告徴収,立入検査等(第11条,第12条)
 農林水産大臣及び環境大臣は,愛がん動物用飼料の製造業者,輸入業者,販売業者,運送業者又は倉庫業者から報告を求めることができ,また,それらの者に対して立入検査等を行うことができる.
(7)施 行 期 日
 公布の日(平成20年6月18日)から起算して1年以内で,政令で定める日から施行する.

 6 今後のスケジュール
 本稿執筆時,政令で定める事項について,施行は平成21年6月1日,法律の対象となる愛がん動物は犬及び猫とする予定である.
 また,省令において規定するとされた,具体的な基準・規格,届出・帳簿に記載する事項等は,今後,政府内において調整して定めることとしている.その際,法律の規制対象となるペットフード製造業者等の関係者が,準備を行うために必要な期間が確保できるよう,できるだけ速やかに各事項を定めることとしたい.
 特に,ペットフードの安全性を確保するために,最も重要であるペットフードの製造方法,表示についての基準・成分に関する規格については,法律に基づき,農林水産大臣及び環境大臣が,農業資材審議会及び中央環境審議会の意見を聴いて定めることとしており,8月から行われている両審議会の合同審議の場において,具体的な基準・規格について検討が行われている.
 審議会で配布された資料や,議事録等については,随時,農林水産省及び環境省のホームページにおいてお知らせする予定である.

 7 さ い ご に
 ペットフードの安全性を確保する法律は,米国,EU等では存在するものの,我が国では初めてのものである.これから,法律を実際に執行していくための詳細な規程(政令,省令,通知等)を定めていくこととなるが,本法の目的(ペットフードの安全性の確保を図り,ペットの健康を保護し,動物愛護に寄与する)を達成するために,関係者の皆様の御協力をいただきながら,より良い制度を作っていきたい.

【参 考】
愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律の概要




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