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意見(獣医学系大学生の声)

公衆衛生業務に取組む獣医師を目指して

原田知享(東京大学農学部獣医学専修5年)

原田知享
 私は高校で生物を学び動物の体の仕組みの複雑さに興味を持ち,もっと深く生物について知りたいという想いを抱いて大学へ進学した.その後数多くの生物系の専攻の中で最もマクロな視点で,また様々な動物の体を見ることができるのではという理由で獣医学を志した.学部入学当時の獣医師のイメージはマンガやテレビ報道などの影響で小動物臨床が頭の多くを占めており,私も将来は町の獣医師となり犬や猫の診療に携わるのかとぼんやりと考えていた.
 しかし獣医学の課程を進んでいくうちに,獣医師の仕事は多様であり,さまざまな分野で獣医師が活躍していることを理解した.その中でも最も興味を持ったことの一つが公衆衛生の分野である.動物の医学を学ぶ獣医師にあって,感染症の予防や食肉の検査,食品の安全性など,人の健康を直接考えている分野であり,われわれの日常生活と見えないところで密接にかかわっている分野だからである.
 現役の農林水産省の職員や県職員の方々の話を聞く機会があり,そこで食肉や食品の安全性のチェックがどのようになされているのか,またその方たちが近年のBSEによる牛肉輸入問題や鳥インフルエンザの発生に際してどのようなことを体験し,どのようにそれらに取り組んできたのかを理解した.そこに含まれていた獣医師だからこそできる人の健康を守る仕事に非常に興味を惹かれた.
 今わが国ではBSE問題や輸入食品の問題など食の安全について関心が高まっている.また地球温暖化や海外との交流により,マラリアをはじめ,2000年の牛の口蹄疫の発生や2006年の国内での狂犬病による死者の発生など今まで以上に感染症が蔓延する危険性が高まっていることを感じている.
 海外からの危険な伝染病を水際で防ぎ,また国内での感染拡大防止によって人々を守ること,さらに安全な食を人々に供給できるようにすることは,これからも一層社会の中で重要な課題として扱われていくであろう.これらの問題を解決に導くには医学や獣医学だけでなく行政や経済,法律など様々な要素が絡んでくる.獣医師としての枠にとらわれず様々な分野に精通し,また多くの人たちと連携しながら,私はこれらに取り組む人々の一人として,また人の健康と安全にかかわる獣医師を目指して進んでいきたいと考えている.




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