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馬耳東風

 年末恒例のNHK紅白歌合戦の最後に,「蛍の光」の大合唱が行われる.この歌で今年もお別れだと言うことだ.わが国では「蛍の光」は卒業式の定番曲であった.であったというのは近年少しずつ卒業式の定番曲に変化が見られるからである.それでもこの曲がわが国では別れの曲の定番であることには変わりはない.デパートでもスーパーでも閉店時刻が迫るとこのメロディを流すところが多い.いつだったかプロ野球の阪神タイガースの公式戦を見に行ったとき,相手チームの投手が打ち込まれて途中降板するときに,タイガースの応援団席からこのメロディが大々的に流れたことに出くわしたことがある.もちろん相手チームの投手におさらばよと言うメッセージである.とにかくわが国では「蛍の光」はお別れ,おさらば,さよならを意味するメロディなのだ.
 このお別れのメロディが新年の歌だと聞くと我々はまさかと思う.そんな馬鹿なと思うに違いない.ところが,確かアメリカ映画の「ポセイドンアドベンチャー」だったと思うが,この曲が流れる場面があった.それはお別れではなく,新年を迎える場面だったと記憶している.
 昔学校でこの曲を習ったとき,原曲はスコットランド民謡「Auld Lang Syne」であると聞いた.古い仲間と宴会をした際に,最後に再会を誓って歌われる,即ちお別れの歌であると習ったものだ.しかし,現在スコットランドで歌われているこの曲の歌詞は,旧友と再会し,思い出話をしつつ酒を酌み交わす内容に間違いはないが,決して決別の歌ではない.もう少し調べてみると,イギリスやアメリカでは新年を祝うときに歌われるらしい.「ポセイドンアドベンチャー」の記憶は間違いではなかったようだ.フィリピンでは,新年と卒業式の両方で歌われるという.しかし卒業式はお別れではなく,commencement ceremonyつまりこれからスタートだよと言う意味である.卒業式そのもの意味が違うのだ.日本とは大違いだ.
 また映画の話になるが,日米開戦前にアメリカで制作されたヴィヴィアン・リー主演の名画「哀愁(Waterloo Bridge)」の中でワルツにアレンジされたこのメロディが流れていた.非常に印象的なシーンで,印象的なメロディだったが,それは決してお別れを意味するシーンではなかった.
 なぜ日本ではお別れの曲になったのか? どうやら明治の初期文部省唱歌を編纂する際,作詞者が本来とは全く違った意味の歌詞をつけたかららしい.特にその1番の最後の歌詞,「あけてぞけさは,わかれゆく」が犯人と思われる.さらに帝国海軍が「告別行進曲」という題で各種学校の卒業式で演奏をしたというからたまらない.
 少しばかり話は違うが,その昔,ヨーロッパに留学した日本人女子学生が,あるイヴェントで,日本を代表する曲と踊りを紹介してくれと頼まれ,わざわざ着物を着て,「蝶々蝶々菜の葉に止まれ♪♪♪」と歌って踊ったそうだ.周囲の聴衆が怪訝な顔をしたという.
 蝶々の原曲はスペイン民謡だったのだ.

(子)