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解説・報告

日本大学動物病院(Animal Medical Center)の
増改築と今後の展望

田中茂男(日本大学生物資源科学部動物病院長)

先生写真1 は じ め に
 日本大学農獣医学部家畜病院(現生物資源科学部動物病院)は平成7年3月,東京(世田谷)キャンパスの家畜病院を閉院し,同年5月,本学部の湘南キャンパスに新たに最先端医療設備を整えた日本大学動物病院(Animal Medical Center:以下ANMEC))として開設された.当時のANMECの主要設備のなかには,他の獣医療施設に先駆けて導入したMRI(超電動型)やCTを完備したこともあって同僚大学や開業獣医師からの注目を浴びた.同年9月,第25回世界獣医学大会・世界小動物獣医学会議がパシフィコ横浜で開催され,その時の見学コースの一つにANMECが選ばれ,多くの外国人獣医師をお迎えしたことが記憶に新しいところである.また,当時より,獣医療に対する社会的ニーズは急速に高まり,生活におけるコンパニオンアニマルの重要性や動物愛護思想の普及に伴って人の医療と同様に高度医療の提供が求められるようになった.
 一方,獣医学教育に対する国際化が叫ばれ,いわゆる欧米並みの教育レベルが要求されるようになり,なかでも臨床獣医学に対する抜本的な改善が強く求められるようになった.この10年余の間,獣医学教育の改革への動向は獣医系国立大学の再編整備に向けての活動など精力的に推進されてきたが,平成16年4月,国立大学の独立行政法人化に伴って国立大学の再編整備の動きは自主性・自律性を拡大する方向へと展開されている.しかし,私立獣医科大学においては,ここ数年,自助努力によって次々と新しい動物病院が誕生し獣医学教育の充実に向けての改善が推進されている.
 本学では獣医学教育の充実に向けて平成16年度入学生から教育カリキュラムの大幅な変更を行っている.特に,臨床教育ではANMECを中心とした臨床教育システムが導入され,診療科目ごとのローテイション教育を実施する予定となっており,その実務計画に向けて教育環境整備が急務となっていた.
 そこで,この度,高度化した獣医療ならびに臨床教育のさらなる充実・強化を図る目的で平成16年度から平成17年度の2年間に亘ってANMECの増改築工事を行い,ここに装いも新たにANMECが完成した.
 近年,牛海綿状脳症(BSE)や高病原性鳥インフルエンザなどの流行が懸念されるなど人と動物の共通感染症に対する脅威が社会問題となっており,獣医師の社会的役割は益々重大となっている.このような新興・再興感染症に対する先端的研究施設としてANMECの上階(2階と3階)に,この度「動物医科学研究センター」が新設された.まさに時代に即した人と動物の共通感染症の防御に向けての研究施設であり,すでに先端的研究の活動が開始されている.

2 日本大学動物病院(Animal Medical Center:ANMEC)の歩み
 昭和53年,獣医師法が改正され学部4年制の卒業後に,さらに大学院修士課程2年の教育を受けて,獣医師国家試験の受験資格が得られるようになった.いわゆる獣医学教育の一貫6年制教育に向けての積み上げ方式がスタートしている.これを受けて,昭和57年4月,家畜病院を除き獣医学科が藤沢校舎(現湘南キャンパス)に移転した.その後藤沢校舎から臨床教育の場として引き続き東京キャンパスの家畜病院が利用されていた.しかし,教育の主体が湘南キャンパスにあるため,平成7年3月,東京キャンパスの家畜病院が閉院され,同年5月,藤沢キャンパスに近代的な現在の日本大学動物病院(Animal Medical Center;ANMEC)が開設された.
 ANMECは先端的な動物医療を実践する教育病院として機能し,かつ,動物医療を通じて地域社会に貢献すること.また,研修医の指導や獣医師の卒後教育施設としても機能すること,さらには研究機関として疾病の診断法や治療法の開発などを目的に活動が開始された.
 建物は鉄筋コンクリート造2階建で延べ床面積は1,359.16m2(1階床面積714.22m2 2階床面積644.94m2)であり,診察室3,処置室2,ME室,理学療法室,MRI室,CT室,X線室,手術準備室,手術室2,集中治療室,研修室,薬局,医療相談室,医局などから構成され,水準の高い獣医療施設となった.
 21世紀における犬・猫は,いわゆるペットとしての愛玩動物の時代から家族の一員である伴侶動物(コンパニオンアニマル)の時代へと変遷し,人の生活パートナーとして位置付けられるようになった.これに伴って,獣医療においても人と同様に高度医療が求められるようになった.こうした社会的ニーズに応えるためにANMECの医療機器は最新の診断・治療機器が導入された.主な機器は,磁気共鳴画像診断装置(MRI),X線CT診断装置(CT),コンピューテッドラジオグラフィー(CR),カラードップラ超音波診断装置,X線透視撮影装置,X線照射治療装置,歯科用X線撮影装置,小動物デンタルユニット,小動物内視鏡システムセット,超音波白内障手術装置,脳波形,誘発電位検査装置,血液透析システム等である.特に,磁気共鳴断層装置(MRI・超伝導型0.5T)は当時,国内の獣医療施設としては初めての導入となり,動物医療における脳神経系疾患の診断が極めて的確となった.また,開設記念として校友会より寄贈されたX線CT診断装置(CT)も各種の疾患の診断に多用された.また,カラードップラ超音波診断装置も画像診断部門に加わり,ANMECの画像診断部門は時代のニーズに対応した機種が完備された.
 一方,ANMECの組織は獣医学科と付属施設課と連携して診療部,検査部,医療相談室,医療管理部で構成された.当時の診療部には3名の病院専任教員,6名の獣医学科臨床系教員さらに8名の非常勤講師,19名の研修医が配属され運営された.また,検査部は獣医学科の基礎系教員で構成され,診療部の診療を支援する体制が整えられた.診療部は,一般内科,一般外科,皮膚科,代謝病科,歯科,放射線科,整形外科,循環器科,臨床繁殖科,産業動物科の各専門科に細分され診療に当たった.
 平成11年4月,診療科に総合診療科を加えるなど診療体制の強化がなされた.また,同時に本学では高度医療,専門診療に対応する専門医の養成を目的とした有給研修医制度がスタートし,各診療科を巡回するプログラム研修が開始されている.
 開設6年目を迎えた平成12年9月,診療頭数の増加に伴って待合室が狭隘となり,合わせて診察室の不足などの改善のために,新たに247.63m2の増築工事が行われ,ANMECの延べ床面積は16,000m2と拡張された.1階には待合室が拡張され,事務室,診察室3が増築された.また,2階には,研修医室,資料保管室,医療相談室が増築され,日常の診療業務や臨床教育を実施する上に格段の向上がなされた.

 

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