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解説・報告

インドネシアの狂犬病

森山浩光((社)畜産技術協会参与,元インドネシア農業省アドバイザー)

1 は じ め に
 平成十八年,今年は戌年.戌は,方角は西北西,時刻では午後七時から九時の間.戌は「鉞(まさかり)」の形象で,草木が繁茂し,万物悉く実る戌の月(旧暦九月),必要な枝葉を残して枝や葉を切り払う必要があったからとのこと.干支の戌は,十二支獣では犬になる.
 最初に人間が親しくなった動物が犬ということである.犬がいることにより,人間は狩りをしやすくなり,他の獣の襲撃から守られた.犬は,恩を忘れず,忍耐強く,牧羊犬など畜産との関係も深いものがある.盲導犬や災害救助犬,警察犬,最近では検疫犬.一部の国では,食用にもまわる.そして,家族同様のつきあいができるのが犬である.犬にもたくさんの病気があり,小動物臨床の獣医師の方々を中心に多くの研究や治療がなされている.その中でも狂犬病は人と動物の共通感染症(共通感染症)として,大きな問題となっている.かつて滞在したインドネシアの状況について若干の情報を記したい.
図1 インドネシアの地図
図1 インドネシアの地図

2 世界の犬の種類・頭数
 犬の種類は,大きさも,形態も異なり,まさに多様.700種以上いるともいわれているが,国際畜犬連盟(FCI)は最も多い323種(+暫定8種)を正式に認定している.アメリカケネルクラブ(AKC)のHPでは主な犬種は143種,種が固定されていないものが約50種.英国ケネルクラブ(KC in the U.K.)等のHPにも犬の種類は詳しく載っている.
 一方,犬の頭数についての統計はあまり見あたらない.産業動物でないからであろうか.「世界の統計」でも各国の犬の頭数は載っていない.
 インドネシアでは,宗教(イスラーム)の戒律から犬を飼わない(食べない)人が多く,特にジャワ島では犬を見かけない.まして,離島も多く,犬の頭数もなかなか把握できない状況である.
 日本では,狂犬病予防法に基づいて犬の監察登録をするが,この頭数は犬の総頭数ではない.日本ペットフード工業界では,農林水産省のペットフードの流通量調査(表1)から,独自の計算方法により日本国内の犬の頭数を推測しており,2004年現在で,日本の犬の頭数はおよそ1,245万7千頭(ちなみに猫は1,163万6千頭)としている.
 そして,わが国では,世界に冠たる獣医衛生体制の中,狂犬病の発生は,昭和31(1956)年以来ない.しかし,世界の多くの国では狂犬病の発生がある上,グローバル化が進んでいる現在,すでに口蹄疫やBSE,高病原性鳥インフルエンザが侵入している昨今,十分に気をつける必要がある.
表1 日本のペットフードの販売量

3 世界の狂犬病発生数
 共通感染症である狂犬病の発生は圧倒的にアジア・アフリカ地域に多い.米国,欧州に比べ,アジアでは千倍以上の毎年3〜4万人が死亡するという状況である.ワクチンが少ないのも原因であるが,死亡者3万人以上のインドや数千人のパキスタン,バングラデシュなど南西アジアはまるで狂犬病の巣窟である.東南アジアの各国でも1年に100人弱(フィリピンは約500人)が被害を受ける.ヨーロッパでは,旧ソ連,東欧での発生が多い.オセアニア地域での発生はない.また,米国などからの報告もないのは残念である.
 OIE(国際獣疫事務局)に報告されている犬の狂犬病発症数では,アジアからの報告例は少ないようである.

表2 世界の犬の狂犬病発生

図2 インドネシアで犬は鶏やアヒルと共に暮らす(バリ州)
 図2 インドネシアで犬は鶏やアヒルと共に暮らす(バリ州)

 

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