会報タイトル画像


解説・報告

6 検 体 検 査
 ハムスター類の検体検査にあたって,検査方法は,犬や猫などと同様である.
 ただし,自動化した装置を使用して血液学的検査や血液生化学的検査を行う場合,血球計数装置や生化学分析装置は,ハムスター用に設定した測定条件とはなっていない.したがって,こうした機器を用いて検査を行っても,測定値は得られるが,それが真の値に近いものであるという確証はない.測定値を判断する際には,常にこの点を考慮すべきである.
(1)血液学的検査
 ハムスター類の血液学的検査は,動物病院内で用手的に行うか,または動物病院内で自動血球計数装置を用いて実施するか,あるいは外部の衛生検査所(コマーシャルラボラトリー)に検査を依頼することになる.
 用手的に各種の検査を実施すれば,真の値に近い検査成績を得ることが可能である.しかし,このためは検査手技の熟練が必要であり,また,煩雑でもある.
 そのため,現在では,犬及び猫用の自動血球検査装置を用いて検査を行うことが多くなっている.ただし,前述のように,こうした機器は犬,猫の血液学的検査のために測定条件が設定されているため,ハムスター類の血液検査を高い確度で実施できるという確証がない.
 外部の衛生検査所(コマーシャルラボラトリー)に検査を依頼しても,この点は同様である.衛生検査所では,人用に設定された機器を用いて測定を行っている.
 現状でもっとも推奨できる方法は用手的な測定であるが,自動化したい場合には,おのおのの動物病院で自動血球検査装置を使用し,その機種を用いて測定した際の正常値等をあらかじめ求めておくとよい.あるいは,自動血球検査装置の製造元によっては,あくまでも研究用であり,臨床のためではないのだが,数種の齧歯類やウサギの血液学的検査のために機器の測定条件を変更できることもある.研究用としてであれば,こうした機器設定を製造元に依頼するのも一法である.
(2)血液生化学的検査
 血液生化学的検査に関しても,血液学的検査の場合と同様の問題が発生する.特に酵素類の活性測定では,測定原理や測定条件が異なると,測定値が大きく異なることがある.血液生化学的検査についても,おのおのの動物病院において正常値等を設定することが望まれる.
(3)尿 検 査
 尿検査は,犬や猫の場合と同様に,尿検査試験紙を用いて行うのが一般的である.ただし,尿検査試験紙を浸漬できるだけの量の尿をハムスター類から採取することは不可能である.そのため,試験紙の全項目を測定することはできない.測定を行いたい項目の試験部分だけに十分量の尿を滴下するとよいだろう.
 また,尿沈ーの検査については,遠心分離を行うのに十分な量の尿を採取するのは困難である.尿中の細胞診を行う必要がある場合は,採取した尿の全量を顕微鏡下で観察するとよい.
(4)糞便検査
 ハムスター類の糞便は小塊状になっている.この糞便塊は通常は硬いため,糞便検査に供するには,前もって軟化させる必要がある.糞便を軟化させるには,一般的には水道水を用いて特に問題はない.ただし,原虫類の栄養型の検出を考える場合には生理食塩水を使用しなければならない.
 ハムスター類の糞便検査としては,寄生虫の検査を行うことが多い.ハムスター類で多用される寄生虫検査法には,直接塗抹法や浮遊法がある.
 直接塗抹法による糞便検査を行う際には,スライドグラス上で糞便塊1〜2個と少量の水道水(原虫類の栄養型の検出を試みる場合には生理食塩水)を混じ,しばらく放置して糞便を軟化させる.その後,爪楊枝などで糞便塊を崩壊させ,水と十分に混和させる.次いで,スライドグラスをかけて鏡検すればよい.
 また,浮遊法を行う際には,供試する糞便の量は0.5〜1gほどがあれば理想的だが,通常は数個の糞便塊を採取するのみであろう.こうした糞便塊を小容器に入れ,ごく少量の水道水を加えてしばらく放置し,糞便を軟化させる.浮遊法では,原虫類の栄養型を検出することができないため,生理食塩水を使用する必要はない.糞便が軟化した後は,飽和食塩水または蔗糖溶液(濃度1280g/l)を加え,爪楊枝や割り箸を用いて十分に混和し,茶漉しなどで濾過を行い,通常の浮遊法を実施する.この際,供試できる糞便量が少ないことがほとんどであるため,試験管としては小試験管を用いるか,あるいは血液学的検査に使用した採血管を洗浄したうえで使用するとよい.

7 セロハンテープ検肛法による蟯虫の検査
 セロハンテープ検肛法は,本来は人における蟯虫卵の検出のために考案された検査法であるが,種々の動物の蟯虫検査法として利用することができる.
 実施にあたっては,セロハンテープの粘着面を肛門とその周囲に付着させ,指先で軽く押さえるようにする.このとき,指の代わりに小試験管などの管底を押し当ててもよい.次いで,セロハンテープをRがし,スライドグラスに貼り付けて鏡検を行う.
 齧歯類に寄生が認められるSyphacia属蟯虫は,産卵に際して雌成虫が宿主の肛門に移動し,肛門周囲に卵を産み付ける.この産卵は13時頃をピークとして行われる.したがって,13時から15時頃に検査を実施すると虫卵の検出率が上昇する.
 なお,ハムスター類にはAspiculuris属蟯虫が寄生していることもあるが,本属の蟯虫は大腸内で産卵を行うため,セロハンテープ検肛法ではなく,通常の糞便検査により虫卵を検出する.

 

引 用 文 献
[1] 深瀬 徹:獣畜新報,49,376-378(1996)
[2] 深瀬 徹:獣畜新報,50,214-216(1997)
[3] 深瀬 徹:獣畜新報,51,774(1998)
[4] 深瀬 徹:日獣会誌,59,155-157(2006)
[5] 深瀬 徹:日獣会誌,59,298-300(2006)
[6] Goodman G : BSAVA Manual of Exotic Pets, Meredith A. and Redrobe S ed, 4th ed, 26-33, British Small Animal Veterinary Association, Gloucester (2002)
[7] West GB, Brown JH, Enquist BJ : Scaling in Biology, Brown JH and West GB ed, 87-112, Oxford University Press, New York (2000)



† 連絡責任者: 深瀬 徹
(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門)
〒204-8588 清瀬市野塩2-522-1
TEL 0424-95-8859 FAX 0424-95-8415


戻る