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解説・報告

米国獣医学会:安楽死に関する研究会報告2000(VII)

鈴木 真(ファイザー(株)中央研究所)・黒澤 努(大阪大学医学部助教授)

 二酸化炭素:二酸化炭素は小動物に適切な安楽死の方法であり,一酸化炭素よりも装置を操作する作業者に対する危険が少ない.100%二酸化炭素では,ミンクは 19±4秒で意識を消失し,153±10秒で死に至る.70%二酸化炭素を30%酸素と用いると,ミンクは28秒で意識を消失するが,15分経過しても死に至らない80.70%二酸化炭素で気絶させて,100%二酸化炭素あるいは他の方法により死に至らしめる方法もある.一酸化炭素と同様に,装置には動物を一匹ずつ収納する.
 バルビツール酸塩:バルビツール酸塩の過剰量投与は毛皮の採取を目的とした動物の安楽死には適した方法である.腹腔内に薬剤を投与すると徐々に意識を失う.バルビツール酸塩を追加注入して,確実に死に至らしめることが重要である.バルビツール酸塩は死体に残留するため,毛皮を採取した後の死体を動物の食物にすることはできない.
 電撃:キツネやミンクの死亡には電撃が用いられ
135.全身に電流が流れる前に,脳に電流を流して意識を消失させる.電撃による気絶の場合には他の方法を用いて安楽死させる.頸椎脱臼がミンクや他の小動物に用いられるが,電撃による気絶後20秒以内に実施する必要がある213.鼻端から尾部へ,または鼻端から四肢端へ電流を流す方法135は,心室細動により死に至らしめるが,死に至るまで覚醒下にあるため,単独では安楽死の方法として用いることができない.
 
 胎仔及び新生仔の安楽死
 卵巣:子宮摘出術を行った場合,母胎から分離した後速やかに胎仔の安楽死を実施する必要がある.新生仔は相対的に酸素欠乏に対して抵抗性がある44,214
 
 大量の安楽死
 疾病の根絶や天災などの非常事態では,安楽死の方法は限られている.これらの状況下では人や動物の健康に最も影響しない方法が用いられる.二酸化炭素あるいは銃撃,貫通ボルト及び頸椎脱臼などの物理的方法が用いられる.
 
あ と が き
 この報告書は,動物の安楽死に関する現代の知識をまとめたものであり,安楽死される動物の疼痛,不快感及び苦痛を評価する科学的論文の少なさについて喚起するものである.安楽死の種々の方法に関する多くのレポートは,逸話的,証言説話的,あるいは実質的でない意見が載せられており,この報告書には引用されていない.本研究会は安楽死の判断基準に合致する方法を用いて,すべてに洗練された実験が行われる必要性を強く求めるものである.
 安楽死に用いるそれぞれの方法は利点及び欠点を有する.さまざまな状況で,すべての望まれる基準を満たす方法が存在するとは限らない.また,動物が安楽死されるあらゆる状況について,この報告書に記載されているわけではない.したがって,専門的な判断が必須である.
 報告書に記載されていない,あるいは推奨されていない安楽死の方法を用いることが,絶対的に非難されるわけではない.特別な環境下,あるいは状況下では,これらの方法を用いることが容認される.実験動物に対してこれらの例外的方法を用いる場合には,担当獣医師及び動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)により慎重に討議する必要がある.他の状況では,専門的な判断が必要である.
 研究会は,容認されていない安楽死の方法については,その方法の作用機序,薬物動態が明白に示される,及び科学的に検証され,正当化する研究が,科学論文に公表されるまで検討しない.これらの安楽死に対する判定は,研究会の基準に沿って新しい手技,方法あるいは用具を慎重に評価するという非常に重要な責務に負うものである.決定的な検証あるいは合理的な可能性が明らかでない場合には,動物にとっての有益性が判断プロセスに最大限に反映されるべきである.
 報告書に引用されている文献はすべての安楽死についての包括的な目録ではない.動物の安楽死について特別な見地からのさらなる情報が必用な場合には,動物福祉情報協会(Animal Welfare Information Center, National Agricultural Library, 10301 Baltimore Blvd, Beltsville, MD 20275)が問い合わせに応ずる.
 安楽死に関する研究会は,いかなる理由であれ動物を死亡させる時には,可能なかぎり疼痛を伴うことなく,かつ素早く実施することが肝要であるとの概念を明記する.この問題に言及する必要がある獣医師に対して,有用なガイドラインを設定することがわれわれの使命であり,これらのガイドラインがすべての動物関係者に良心的に用いられることを切に願うものである.より多くの科学的研究成果が公表された時,この報告書の改訂作業が勧められると考える.

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付表1

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付表2

 

(以降,次号へつづく)

 


† 連絡責任者: 黒澤 努(大阪大学大学院医学系研究科実験動物医学教室)
〒565-0871 吹田市山田丘2-2
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