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会議報告

衆議院農林水産委員会におけるBSEに関する
北村直人議員の参考人質疑


 平成17年5月20日の衆議院農林水産委員会において,北村直人議員がBSEに関する参考人質疑を行ったが,その概要は次のとおり.

注:参考人は次の2名.なお,北村議員の質疑時間は僅か15分.
  沖谷明紘(牛の月齢判別に関する検討会委員長,日本獣医畜産大学教授)
  山内一也(食品安全委員会プリオン専門調査会専門委員,東京大学名誉教授)

 
参考人質疑を行う北村直人議員
参考人質疑を行う北村直人議員

北村議員 米国は枝肉の骨格や肉質を見て20カ月齢以下を判別するという提案をしているが,日本の国民の間には依然としてそのような方法で本当に月齢判別が可能なのかという素朴な疑問がある.
 沖谷先生は肉質の評価の専門家であるが,私の知るかぎり,日本では牛肉の肉質と月齢との関係に関する研究というような学問があるというようにはあまり聞いたことがない.
 月齢判別に関する検討会では,米国のいうA40というような基準を認めざるを得ないというような結論を出されているが,沖谷先生は本当にそのような方法で月齢判別ができると思われるのかどうか率直なご意見を伺いたい.
 
沖谷参考人 生理学的な成熟度による月齢判別に関し,牛肉の色及びキメについてはそのような研究がないわけではなく,公知の事実として全世界の肉の研究者が理解しているところであり,日本の格付けにおいても色が濃いものは老齢牛ということで低く格付けされる.このように,肉質については研究をする必要はない状況である.
 骨に関する月齢判別に関する研究については,われわれは経験していないが,米国側はそれを用いたということであり,実際にデータ,現物を見せていただき,研究として成立するかどうか米国に各種データの提出を求め,私どもの検討会でその判定方法について検討したものであるが,検討会の結論としては米国の方法で判定できるということになったものである.
 
北村議員 沖谷先生の科学的な知見は大変評価できると思うが,一方で,米国の事例をみると,1日に5千頭規模のと場等で,6秒程度の短い時間の中で格付官が枝肉の格付けを行うということであり,本当にそのようなことで判別ができるのかという心配がある.
 したがって,今後わが国の国民に対して米国の格付け方法等をしっかり理解させないと不安をぬぐいきれないので,先生方に一層のご指導をいただきたい.
 次に山内先生にご意見を伺いたい.私は,一般的に日本の消費者というのはいわゆるゼロリスクを求めていると思うが,BSEの実態がはっきりしないため,その原因が取り除かれるような措置としてスクリーニングの実施を望んでいるのではないかと思う.
 しかし一方で,食品安全委員会においてはプリオン病の専門家の方々が原因は何かというようなことについて議論していたのが,いつの間にか委員会の考え方がサーベイランス,疫学的,統計的なものでくくられてしまったのではないかという危倶を私は持っているところである.これについて山内先生の見解を伺いたい.
 
山内参考人 まずゼロリスクの問題であるが,BSEについては科学的に分かっていないことが多々あり,たとえば特定危険部位に関してもまだわかっていないところがある.そのようなリスクというものは,今いかなる安全対策を講じても結局は残るものである.
 したがって,ゼロリスクにはならないが,科学的には可能な対策はすべて講じるべきである.少なくとも国民がそのようなものの負担に応じるのであれば,私は全部講じるのが正しい考え方であると思う.それでもゼロリスクにはならないということを認識してもらう必要があると考える.
 また食品安全委員会の議論に関し,BSEの原因究明については,これは大変難しいことで,科学的に研究していけばいくほど分からない問題がたくさんある.そのような中で食品安全委員会ではどのような安全対策を講じていけばよいかを議論してきたつもりである.ただ,リスク評価には,定性的なリスク評価と定量的なリスク評価の二つがあり,より科学的,客観的な方法は定量的なリスク評価である.
 したがって,できるだけそのような方向にもっていきたいと思ったが,残念ながら多くのデータがないことから,その議論の中で疫学的な面がかなり強くなったものと思う.定性的な評価においては,少なくとも個々のいろいろな汚染の要因とか,人への感染をもたらす要因,これは実際には生体牛の汚染度と食肉の汚染度というものを種々の要因について調査したものであるが,この段階においては疫学的ということではなく,客観的,定性的な判断をしてきたところである.しかしながら,結論的には疫学的または確率論的な考え方にならざるを得なかったということである.
 
北村議員 確かにゼロリスクは有り得ないわけで,自分がそのリスクをいかに回避していくか,あるいは社会がそのリスクをどのようにしてゼロに近づけていくかという政策をとっていくことが重要である.食育等を含め,小さいときから教育を通じてそのようなことを知らしめていくことが大切であると思っている.
 これから米国産牛肉の輸入に対する諮問,答申が出されるわけであるが,サーベイランスとスクリーニングについては山内先生の言われるとおりだと思う.一方,米国からは疫学の専門家が,わが国からはプリオンの専門家が出て協議が行われているが,このようなことだとレールのようにどこまで行っても平行線で交わらないというようなことになるのではないかと私は危惧している.
 したがって,日本が米国産牛肉の輸入を再開するのであれば,米国はプリオンの専門家を出して日本の専門家と議論する必要があるのではないかと思うが,これについて山内先生の見解を伺いたい.
 
山内参考人 私はこれまで日米BSE作業部会に参加して議論してきたが,米国側にはプリオンの専門家は一人もいなかった.また,米国においては,USDAあるいは獣医大学でBSEやプリオンの研究を行っている人はまったくいないと言ってよいと思う.ただ,鹿の慢性消耗病という別のプリオン病の研究を行っているグループはあるが,BSEについては研究していない.
 日米BSE作業部会において一番痛切に感じたことは,われわれのカウンターパートがいないということで,科学的な議論をしようにも行政官を相手に議論をしていることから,そこですれ違いが起こっている感を非常に強く持っている.
 
北村議員 山内先生のご意見は貴重であるので,今後,わが国も毅然とした態度で米国に対してものを言っていかなければならないと考えている.
 どうも物を買う側が売る側の条件に合わせるというのは,何かおかしいのではないか.本来は,売る側が買う側の条件を満たしたうえで買ってくださいというのが普通であり,買う側が自分たち売る側の条件をのめというのは,非常に横暴な意見である.
 本日,専門家お二人のご意見を聞かせていただいた.わが国としても毅然として,米国に対し明確な意見を述べ,第一義的に日本の消費者の安全ということに的を絞って両先生の専門的な知見を堂々と述べていただくことをお願い申し上げて私の質問を終わる.