解説・報告

エキゾチックアニマルの生物学(そのI)
--ペットとして飼育される哺乳類--

深瀬 徹(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門専任講師)

 1.エキゾチックアニマルとは
 エキゾチックアニマルといわれる種々の動物がペットとして飼育されるようになって久しい.特に最近10年間は,実にさまざまな種の動物が一般の家庭で飼育されるようになっている.
 ところが,実際には,ウサギ(アナウサギ)やシマリス,ゴールデンハムスターなどは,以前から多数が飼育されており,特にエキゾチックアニマルといわれていたわけではない.ところが,これら以外の特殊な動物の飼育が普及したのにともない,あわせてエキゾチックアニマルと称されるようになったのであろう.
 では,エキゾチックアニマルとは,どのような動物であろうか.英語のエキゾチック(exotic)とは,「外国産の,外国種の,外来の」というほか,「異国物らしい,異国情調の,異国風の」あるいは「特に珍しい,風変わりな」などの意味を有する.これにもとづけば,外国から輸入された珍しい動物がエキゾチックアニマルということになろう.
 しかし,現実には,日本産の動物であっても,犬,猫以外はエキゾチックアニマルといわれることが多く,また,犬や猫の場合は,たとえ輸入された珍しい品種であっても,エキゾチックアニマルとはいわない.
 エキゾチックアニマルという名称に明確な定義はないが,現在,一般的な獣医療において,あるいはペット産業においてエキゾチックアニマルというとき,それはペットして飼育されている犬,猫以外の動物をさしており,系統分類学的には哺乳類,爬虫類,両生類,そしてある種の無脊椎動物に属しているものといえるだろう.鳥類については,飼い鳥としての歴史が古く,エキゾチックアニマルとはいわないことが多いようである.また,魚類についても同様である.

 2.エキゾチックアニマルの診療
 エキゾチックアニマルの飼育個体数の増加にともない,動物病院においてそれらを診療する機会が増大していることは事実である.エキゾチックアニマルはペットとして飼育されており,当然,その診療は,ペットを主たる診療の対象としている動物病院に依頼されることになろう.その結果,従来は犬と猫のみをおもに診療していた動物病院で多種多様な動物に対する対応が迫られることになっている.
 各種のエキゾチックアニマルのなかには,昆虫類やクモ類など,現状では診療の対象となりにくいものもあるが,その反面,哺乳類や爬虫類,両生類については,多方面からの知見が集積されつつある.エキゾチックアニマルの診療を敬遠される動物病院も多いようだが,少なくとも哺乳類に限っていえば,その動物の生物学的特徴や適正な飼育法を理解していれば,犬および猫用の診療器具を用いておおよその診療を行うことが可能である.ただし,系統分類上のさまざまな位置に属する多種の動物を診療するには,犬あるいは猫用の薬剤,または人体薬を用いるだけでは不十分なこともあり,動物種によっては馬用や牛用の薬剤も適宜に使用べきことがある.
 今回は,哺乳類一般について,その特徴を述べ,また,ペットとして飼育されている種について簡単に紹介してみたい.

 3.哺乳類の特徴
 哺乳類は,脊椎動物門において1つの綱(class)を形成する一群の動物である.
 脊椎動物とは,その名のとおり,脊椎(椎骨)を有する動物で,椎骨が縦列して脊柱が成立している.脊椎動物には,円口綱,軟骨魚綱,硬骨魚綱,両生綱,爬虫綱,鳥綱,哺乳綱が含まれる.このうち,両生綱,爬虫綱,鳥綱,哺乳綱の4つを合わせて四肢動物ということがある.なお,最近,魚類を中心として脊椎動物の分類を考えるとき,上記の分類とは大きく異なる体系が提唱されているが,ここでは従来の一般的な分類にしたがうことにする.
 哺乳類は,ある系統の爬虫類から進化したものといわれる.体表は通常は毛に被われ,皮膚には皮脂腺や汗腺,乳腺が発達している.定温動物で,肺呼吸を行い,心臓は2心房2心室である.単孔類を除いて胎生で,乳腺から分泌される乳汁によって哺乳を行う.

 4.哺乳類の分類
 研究者によっても異なるが,哺乳類は一般に18〜21程度の目(order)に分けられている.本稿では,Nowak(1991)にしたがって21目に分類した.また,和名については,『動物大百科』第1巻〜第6巻(平凡社)および『世界哺乳類和名事典』(平凡社)に準拠したが,一部にはペットショップ等で用いられている名称も併記した.
(1) 単 孔 目
  哺乳類のなかで唯一,この単孔類のみが卵生で,総排泄孔を有する.
  単孔目には,ハリモグラ2種とカモノハシ1種が属している.ただし,ペットとしての飼育はない.
(2) 有 袋 目
  有袋類は,繁殖に際して,発生の比較的初期の段階で新生子を分娩する.新生子は,母獣の腹部に存在する育子嚢に入り,そこで発育を続ける.
  有袋類では,コアラやカンガルー類がよく知られている.ペットとしては,フクロモモンガやダマヤブワラビーなどが飼育されている.
(3) 食 虫 目
  食虫類の多くは夜行性で,おもに昆虫食である.
  食虫類ではモグラ類がよく知られているが,ペットとしてはハリネズミ類,特にヨツユビハリネズミ(ピグミーハリネズミ)などが飼育されている.
(4) ハネジネズミ目
  長い鼻を有し,外貌上はトガリネズミに類似する.かつては食虫目とされたり,他の目に編入されていたが,現在は,独立した目とされていることが多い.
  ごくまれにペットとして飼育されるが,診療の機会はきわめて少ないであろう.
(5) 皮 翼 目
  身体の両側面によく発達した飛膜を有する.
  ヒヨケザル類2種が含まれるのみで,ペットとはなっていない.
(6) 翼 手 目
  翼手類,すなわち,コウモリ類は,持続的に飛行することができる唯一の哺乳類である.
  およそ1,000種が知られ,今後も多くの新種が発見される可能性が高い.ある種のオオコウモリ,たとえばルーセットオオコウモリなどがペットとして飼育されていたが,現在は,人と動物の共通感染症の予防の観点から輸入が禁止されている.
(7) ツパイ目
  リスに類似した体型を示す動物である.食虫目や霊長目に編入されたことがあるが,現在はツパイ目として独立させるのが一般的である.
  ペットとしての飼育はまれである.
(8) 霊 長 目
  霊長目は,原猿亜目と新猿亜目に大別される.原猿亜目ではスローロリスやポットー,ショウガラゴ,オオガラゴなど,また,新猿亜目ではコモンマーモセットやリスザルなど,多くの種がペットとなっている.
(9) 貧 歯 目
  貧歯目にはナマケモノとアリクイ類,アルマジロ類が属する.まれに,アリクイ(ヒメアリクイと思われる)と数種のアルマジロ類がペット用に販売されている.
(10) 有 鱗 目
  有鱗類は体表が角質の大きなうろこで被われている.
  絶滅の危機に瀕している種が多く,ペットとしての飼育はない.
(11) ウサギ目
  ウサギ目はナキウサギ科とウサギ科からなる.ウサギ科には,アナウサギ(rabbit)とノウサギ類(hares)が含まれる.一般的なペットとなっているウサギはアナウサギで,ペット用に限らず,種々の品種が確立されている.また,ときにノウサギ類やナキウサギ類がペットショップで販売されているのをみる.
(12) 齧 歯 目
  齧歯目には1,700種以上が存在し,哺乳類のなかで最大のグループ(目)を形成している.齧歯目は,リス亜目,ネズミ亜目,テンジクネズミ亜目に大別される.
  リス亜目ではシマリスがもっとも多く飼育されているが,このほかオグロプレーリードッグやキタリスなど,また,ネズミ亜目ではヒメキヌゲネズミ(ジャンガリアンハムスター),キャンベルキヌゲネズミ(キャンベルハムスター),ロボロフスキーキヌゲネズミ(ロボロフスキーハムスター),ゴールデンハムスター,オブトアレチネズミ(ファット・テイル・ジャービル),スナネズミなど,テンジクネズミ亜目ではモルモットやチンチラなど,きわめて多くの種がペットとなっている.
  ただし,現在,人と動物の共通感染症の予防のため,プレーリードッグ類は輸入禁止となっている.同様に,他種の齧歯類についても,野生個体の輸入は避けるべきといわれている.
(13) クジラ目
  海生の哺乳類で,保温のための被毛を欠く.前肢はひれ状に変化し,後肢は退化して失われている.
  ハクジラ亜目(マイルカ類,マッコウクジラ類など)とヒゲクジラ亜目(ナガスクジラ類など)に分けられる.当然,ペットしての飼育はない.
(14) 食 肉 目
  食肉類は,4本の裂肉歯を有するのが特徴である.ただし,食肉類の動物のすべてが肉食性というわけではなく,ジャイアントパンダやレッサーパンダのように植物食の種もある.
  食肉類は,齧歯類とならんでペットになっている種が多いグループである.犬,猫に加え,フェネックギツネ,アライグマ,フェレット,シマスカンクなどの多種がペットとして飼育されている.
(15) 鰭 脚 目
  海生の哺乳類で,四肢がひれ状に変化している.食肉目に含まれることもあるが,鰭脚目として独立させることが多い.
  アシカ科,セイウチ科,アザラシ科に分けられる.動物園あるいは水族館ではしばしば展示されているが,ペットとしての飼育はない.
(16) 管 歯 目
  ツチブタ1種のみが現存する.アフリカに分布し,夜行性で,シロアリやアリを食する.ペットとしての飼育はない.
(17) 長 鼻 目
  アフリカゾウとアジアゾウの2種のみが現存する.ペットしては飼育されない.
(18) イワダヌキ目
  イワダヌキ類(ハイラックス類)は,原始的な有蹄類に属するといわれ,管歯類や長鼻類,カイギュウ類と近縁である.
  まれにペット用に販売されているのをみる.
(19) カイギュウ目
  カイギュウ(海牛)類は草食性の海生哺乳類である.
  ジュゴン1種とマナティー類3種が属する.当然,ペットとはなりえない.
(20) 奇 蹄 目
  奇蹄目には,ウマ科(ロバ,馬,シマウマ),バク科,サイ科が含まれる.
  ロバと馬は家畜として長い歴史があり,多くの品種が作出されている.ヨーロッパでは小型の馬をペットとすることがあり,日本でもミニチュアホースと称される小型種がペット用に販売されている.しかし,小型とはいえ,馬はその他のペットに比べれば大きく,現在の日本ではペットしての飼育は一般的ではない.
(21) 偶 蹄 目
  偶蹄目には,イノシシ科やカバ科,ラクダ科,シカ科,キリン科,ウシ科などが含まれる.
  イノシシ科の豚,ウシ科の牛と羊,山羊は家畜となっている.アメリカ合衆国では,ペット用にいわゆるミニブタが飼育されているが,日本における飼育例は少ない.日本では,偶蹄類をペットとして飼育することはほとんどなく,幼稚園や小学校などで山羊が飼育されている程度である.
フクロモモンガ



ヨツユビハリネズミ(アルビノ)
 

 

参 考 文 献
[1] 今泉吉典(監修):世界哺乳類和名事典,平凡社,東京(1988).
[2] マクドナルド DW(編),今泉吉典(監修):動物大百科 第1巻 食肉類,平凡社,東京(1986).
[3] マクドナルド DW(編),大隈清治(監修):動物大百科 第2巻 海生哺乳類,平凡社,東京(1986).
[4] マクドナルド DW(編),伊谷純一郎(監修):動物大百科 第3巻 霊長類,平凡社,東京(1986).
[5] マクドナルド DW(編),今泉吉典(監修):動物大百科 第4巻 大型草食獣,平凡社,東京(1986).
[6] マクドナルド DW(編),今泉吉典(監修):動物大百科 第5巻 小型草食獣,平凡社,東京(1986).
[7] マクドナルド DW(編),今泉吉典(監修):動物大百科 第6巻 有袋類ほか,平凡社,東京(1986).
[8] Nowak RM : Walker's Mammals of the World, 5th ed., Vol. 1, John Hopkins University Press, Baltimore and London (1991).
[9] Nowak RM : Walker's Mammals of the World, 5th ed., Vol. 2, John Hopkins University Press, Baltimore and London (1991).



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