|
Proceedings of the Slide-Seminar held by the Livestock Sanitation Study Group
in 2002*†, PartV
〈事例報告No. 35〜41(前号)からつづく〉 | ||
事 例 報 告 |
||
42.豚の精巣にみられた顆粒球肉腫 | ||
〔松原美那子(群馬県)〕 |
||
ランドレース種,雄,3歳8カ月齢,鑑定殺.母豚80頭を飼養する種豚生産を兼ねた一貫経営農家で2002年4月7日より左後肢の跛行が見られ予後不良と判断され,5月8日に鑑定殺された. 剖検では,左右精巣に硬結感を有する凹凸が見られ,割面には直径1〜4cmの灰黄緑色を呈する結節が密発していた.また,大豆大〜テニスボール大の同様の結節が右第5肋骨,右第11肋骨,第12・13胸椎,胸骨にみられた.腎臓表面および実質に大豆大の白色結節が認められた. 組織学的には,精巣において結節は周囲に結合織の増生をともない腫瘍細胞が敷石状に増殖していた.腫瘍細胞の核は円形,大小不同,淡明であった(図42).細胞質内にはエステラーゼ陽性顆粒を含んでいた.また核分裂像が多数みられた.腫瘍細胞はPCNA陽性,ビメンチンおよびchkit蛋白陰性であった.肋骨,胸椎,胸骨および腎臓で認められた結節にも同様の腫瘍細胞の増殖がみられた. 血液検査では,白血球数10,600/μl,血液中に異型細胞は認められなかった. 本症例は,腫瘍細胞の細胞質にエステラーゼ陽性顆粒が認められたことから,顆粒球肉腫と診断された. |
||
|
||
43.採卵鶏の大腸菌による化膿性卵管炎 | ||
〔林 正紘(大阪府)〕 |
||
ハイライン・ジュリア種,雌.200日齢,鑑定殺.2002年3月に128日齢で約2,000羽導入.導入2カ月の間に約50羽が斃死した.斃死鶏は総排泄腔周囲が便で汚れていたり,尻つつきによる被害をうけていたものが多かった.同一鶏舎の他群には著変はみられなかった. 剖検では,病変が認められたのは卵管のみで,卵管下部はチ−ズ様化したピンポン球大の物質で閉塞されていた. 組織学的には,卵管下部(峡部)の粘膜には著しい偽好酸球浸潤がみられた(図43).卵管内のチ−ズ様物は,細菌塊を含んだ壊死細胞や卵黄物質の集合より成っていた.卵巣には顆粒膜層から基質に空胞細胞が多数みられた.腸の漿膜にはマクロファ−ジや偽好酸球の浸潤がみられた.気管の線毛は粗ないし消失,上皮細胞の増数や櫛状配列,一部粘膜の類壊死がみられた. 病原検索では,卵管内のチ−ズ様物から大腸菌が検出された. 以上の所見から,本症例は大腸菌による卵管炎と診断された. |
||
|
||
44.鶏のPseudomonas aeruginosa による壊死性化膿性卵黄嚢炎 | ||
〔與名理昇(高知県)〕 |
||
イサブラウン種,雌,7日齢,鑑定殺.900羽を飼養する採卵鶏農家で,2001年9月12日に県外孵化場から導入した200羽のうち,群の1割程度が元気消失,うずくまりの症状を示し,13日に12羽,14日に6羽が斃死したため,重症の5羽を病性鑑定した. 剖検では,全羽で卵黄嚢の腫大が認められ,黄色〜緑色調を呈していた. 組織学的には,卵黄嚢では漿膜面は水腫性に軽度に肥厚し,線維芽細胞およびマクロファージの増殖を認め,吸収上皮は変性・壊死しており,グラム陰性桿菌塊を含んだ細胞退廃物,変性した卵黄および澱粉様小体が認められ(図44),石灰沈着も顕著であった.心臓では筋線維間に軽度のリンパ球および偽好酸球浸潤(4羽),脳では大脳にグラム陰性桿菌塊を含んだ膿瘍形成(1羽),軽度の囲管性細胞浸潤(2羽)および赤脾随とグリソン鞘周囲に軽度の偽好酸球浸潤(1羽)が認められた.なお,卵黄嚢および脳で認められた菌塊は,抗Pseudomonas aeruginosa 兎血清(日本生物科学研究所)を用いたSAB染色で陽性であった. 細菌検査で,全羽の卵黄嚢からPseudomonas aeruginosa を分離した. 以上の所見から,本症例は緑膿菌感染症と診断された. |
||
|
||
45.兎の膿疱性皮膚炎をともなうスピロヘータ感染による増殖性皮膚炎 | ||
〔芳川恵一(長野県)〕 |
||
品種不明,雌,18カ月齢,鑑定殺.実験用兎の繁殖・育成を行う農家で,2000年に導入した兎2頭が,同年秋頃から顔面に痂皮形成をともなう隆起病変を形成.飼育者は兎を隔離し経過観察したが,治癒見込みがないため2001年2月に病性鑑定に供した. 剖検では,口唇,鼻部周囲,眼瞼,耳介内側および陰部周囲の皮膚が,痂皮をともなってカリフラワー状に隆起し,部位により潰瘍や出血を認めた. 組織学的に,いずれの皮膚隆起部も表皮および真皮が乳頭状,鋸歯状に増殖し,真皮に形質細胞を主体とする単核球細胞が,高度かつび漫性に浸潤していた(図45).表皮は不全角化し,頽廃物を混ぜた痂皮形成や,びらんおよび潰瘍も認められた.また同部および毛包内にグラム陽性球菌塊が散見され,偽好酸球の高度浸潤がみられた.皮膚病変部をWarthin-Starry染色したところ,表皮の基底細胞間に螺旋菌を認めた.この他に,間質性肺炎および肝グリソン鞘で軽度なリンパ球浸潤が散見された. 病原検索では,口唇部,耳介および陰部周囲の皮膚病変から黄色ブドウ球菌を分離した.主要臓器からの菌分離は陰性であった.兎梅毒の血清学的検査は,抗体価が2,560倍以上であった. 病変分布および組織像は兎梅毒のそれに一致し,病変部に螺旋菌を認めたことから,兎のスピロヘータ病と診断された.なお兎梅毒の原因菌は,Treponema paraluiscuniculiであるが,本症例では原因菌の同定にはいたっていない. |
||
|
||
46.牛のMoraxella bovis感染による角膜炎 | ||
〔中村 博(東京都)〕 |
||
ホルスタイン種,雌,14日齢,鑑定殺.搾乳牛約30頭を飼養する酪農家で,2002年3月11日生まれの子牛の両眼が白濁・隆起して見えなくなったため,畜主の依頼で病性鑑定を実施した. 剖検では,両眼の角膜の白濁と隆起の他には異常を認めなかった. 組織学的に,角膜の固有質全体が水腫状に肥厚し,好中球主体の細胞浸潤が認められ,強膜に近い表層では好中球をともなった強い炎症がみられた(図46).角膜前上皮は強膜に近い部位を除いて剥離し,潰瘍となっていた.後境界板,視神経および網膜には異常を認めなかった.グラム染色では角膜表面にグラム陽性球菌が散在性に認められ,角膜固有質の表面に近い部位にグラム陰性の単在もしくは2連の短桿菌が帯状からびまん性に認められた.Moraxella bovis のモノクローナル抗体を用いた免疫染色で,グラム陰性菌にほぼ一致して陽性反応が認められた. 病原検索では,角膜のスタンプ培養でMoraxella 菌類似のコロニーの発育を認めたが,単離は出来なかった. 以上の所見から本症例は,Moraxella bovis による伝染性角膜炎(ピンクアイ)と診断された. |
||
|
||
おわりに,組織写真撮影にご協力いただいた動物衛生研究所衛生検査科写真室ならびに病理組織標本作製にご協力いただいた同所衛生検査科病理検査室に深謝する. 本事例報告の取りまとめは,感染病理研究室・播谷 亮(17-21),谷村信彦(37-41),木村久美子(27-31),病性鑑定室・久保正法(42-46),病態病理研究室・中村菊保(7-11),山田 学(12-16),ヨーネ病・炎症性腸疾患研究チーム・百渓英一(32-36),毒性病理研究室・中島靖之(22-26),三上 修(1-6)が分担して行った. 〔編集責任:動物衛生研究所 安全性研究部 毒性病理研究室 中島靖之,三上 修〕 |
* (独)農業技術研究機構動物衛生研究所(〒305-0856 つくば市観音台3-1-5) | ||
* National Institute of Animal Health (3-1-5 Kannondai, Tsukuba,305-0856) | ||
|
||
|