(2)獣医学教育改善の動き このような事態を改革し,「獣医学教育に関する基準」を達成するために,平成9年4月に開催された第41回国公立大学獣医学協議会以後,関係国立大学は,しばらく休止状態にあった再編整備の努力をふたたび開始しました.そして,平成10年8月20日に開催された第68回全国獣医学関係大学代表者協議会(現名称:全国大学獣医学関係代表者協議会)では,獣医学教育を早急に改善する必要があるとの合意に達し,以下の2点を決議しました .
この決議に基いて,国立大学だけでなく,公・私立大学の獣医学関係教員もまた獣医学教育改善のための努力を始めました. そして,平成10年9月7日,獣医学教育関係者連絡会議構成7団体は,獣医学関係教員の努力を支援するために,文部省高等教育局長宛てに,「獣医学教育の充実について」と題する要望書を提出しました.その内容は,わが国の獣医学教育の水準はきわめて不十分な状態であり,また欧米のそれに比べても著しく低い現状にあること,このような事態を改善するために,獣医学教育を担当する国・公・私立16大学のすべての教員が獣医学教育の充実を決意したことを述べ,教員の自発的な努力による大幅な教育改革の動きに対する文部省の理解と協力を求めたものです. 獣医学教育の充実の方法として,教員数の純増による増員,あるいは学生定員増による教員数の増員が考えられます.しかし,国立大学については国家公務員の定員増が困難なこと,少子化により学生定員増が困難なこと,そして獣医師の数をこれ以上増やす必要がないことなどの事情から,これらの充実策の実現は不可能です.したがって,再編整備により現有の資源を集中化して,スケールメリットを図ることが唯一の方法と考えられます.このような事情から,国公立大学獣医学協議会では,帯広畜産大学,岩手大学,東京農工大学,岐阜大学の4大学は東北大学に,鳥取大学,山口大学,宮崎大学,鹿児島大学の4大学は九州大学にそれぞれ再編して獣医学部を設置し,北海道大学と東京大学は独自で獣医学教育を充実する計画をたて,その実現に向けて努力してきました. しかし,再編整備の動きについては,反対の声があります.そのうちの一つは,現在,獣医学科を持つ大学の学長,農学部長(獣医学科は農学部の所属)による,自らが管理する大学,学部を縮小するような事態を容認するわけにはゆかない,という立場での反対です.このために,多くの新制国立大学の獣医学担当教員による再編整備の努力は実を結ばないまま,いたずらに時間が経過しました. (3)日本学術会議の提言 その後,平成12年3月27日付けで,日本学術会議より獣医学研究連絡委員会報告として,「わが国の獣医学教育の抜本的改革に関する提言」が行われました.提言の内容は,要約すると,以下の2点です.
この報告は,獣医学教育改善の必要性と,その実現のため,担当教員の努力の方向を日本学術会議が正式に認めたもので,大きな意義があります. 平成12年5月30日,国立大学農学系学部長会議において,獣医学科を持つ農学部長をメンバーとして設置された「獣医学教育改善に関するワーキンググループ」が開催され,討議が行われました.その結果 は,概略,以下のとおりです.
このように,獣医学担当教員をはじめとする獣医学関連団体のみならず,獣医学科を擁する農学部長,財団法人大学基準協会,そして日本学術会議が,再編整備による国立大学獣医学教育の改善の必要性を認めた現在,残された問題点は,具体的な再編先です. 再編先については,東北大学と九州大学への再編を国公立大学獣医学協議会が目指していますが,これは,獣医学教育改善ワーキンググループの指摘のように,必ずしも順調に進行してはいません.その大きな原因は,国立大学間での学科の再編は前例がなく,この問題は国立大学農学部の再編にもつながる可能性が高いために,関係者はその対応にきわめて慎重になっていることです. (4)獣医学教育関係者連絡会議の立場 このような状況に基づいて,獣医学教育関係者連絡会議は以下のような基本的な立場を確認いたしました.
|