口蹄疫ウイルスの分離には,かつてはモルモット,マウスおよび牛などの感受性動物を用いた動物接種を実施してきた[45].しかし,動物接種法は検出感度が低く,経費と時間を要するため現在は細胞培養がウイルス分離に用いられている.細胞培養には,歴史的に初代豚腎細胞,初代牛甲状腺細胞,ハムスター腎由来株化細胞のBHK細胞,豚腎由来株化細胞のIBRS2細胞などが用いられる.分離株の宿主親和性を考慮して,由来動物種の異なる培養細胞を用意する必要もある.また,口蹄疫ウイルスとその類似疾病の感受性を考慮して,細胞種を組み合わせ分別分離を行う.なお,分離ウイルスは上記の抗原検出法で同定する.また,キャリアー動物からのウイルス分離材料は,金属製小カップで咽頭から食道上部の粘液を掻き取るプロバング法で採取する[41].キャリアー動物はウイルスを中和する抗体を保有するので,採取材料は速やかに凍結冷却したのち運搬してウイルス分離に用いる.
  また,キャプシド蛋白質1Dまたは非キャプシド蛋白質3D遺伝子領域を標的としたPCR法による遺伝子診断法も実用化され,現在では不可欠の口蹄疫診断法になっている[70, 82].キャプシド蛋白質1D遺伝子領域を標的としたタイプ決定が可能であるというPCR法も報告されているが[2, 97],限られたウイルス株を対象にした実験段階の成績にとどまり,野外材料への応用には誤診断の可能性があるため現在のところ普及していない.
  (2)血清学的検査法:中和試験にはIBRS2細胞などの感受性株化細胞を使用する.しかし,生ウイルスの使用が禁止されているわが国では中和試験は実施できない.口蹄疫ウイルスの抗体検出用ELISAは従来から多数の試みがある.しかし,抗原の立体構造が保たれ非特異反応が少ないこと,きわめて多種類の感受性宿主動物についても,単一の反応系で抗体検出が可能なことなどを検討した結果,現在液相競合エライザ・サンドイッチ法(Liquid phase blocking ELISA)が標準法になっている[53-55].この方法は,まず,抗体検査する目的タイプごとに,被検血清と一定量の口蹄疫ウイルス不活化抗原とをCFプレート上で混和,一次の抗原抗体反応を液相で実施する.その後,被検血清に含まれる抗体で消費された抗原量を上述の間接エライザ・サンドイッチ法で測定し,競合的に抗体の有無と定量を行うものである.スクリーニング法と抗体価測定法があり,抗体価測定では抗体価45倍以上を陽性とする.
  VIA抗原などのウイルス非構造(NS)蛋白質は,タイプ間の共通抗原として,またウイルス感染を証明する抗体検出用の抗原に利用されている.すなわち,NS蛋白質に対する抗体は,理論的にはウイルス感染時にのみ産生され,キャプシド(構造)蛋白質のみからなる不活化ワクチンで免疫した個体にはNS蛋白質に対する抗体は産生されない.このため,NS蛋白質に対する抗体の検出は野外ではウイルス感染を意味し,その抗体検査によりワクチン接種動物と感染動物の識別が可能となる.