口蹄疫を疑う疾病が発生したときには,まず最寄りの家畜保健衛生所あるいは役場等に通報する.また,報告を受けたこれらの機関は速やかに農林水産省に通報する.病性鑑定材料の採取と運搬に先立っては農林水産省と協議する.病性鑑定材料には,可能な限り新鮮な水疱上皮を採取する必要がある.口蹄疫の診断材料は,同一農場であれば家畜個体ごとに採取する必要はなく,複数の個体から新鮮な水疱上皮を集め採材してかまわない.上皮が破裂していない場合には水疱液も診断材料として利用できるので,注射器等で別途内容液を採取する.水疱上皮は2cm角または合計1g以上が必要で,家畜保健衛生所の病性鑑定施設に準備されている保存液に浮遊させる.口蹄疫ウイルスは酸性や塩基性で容易に不活化されるので,保存液のpHは7.2〜7.6の間に厳密に調製する.保存液には,滅菌した1/25Mリン酸緩衝液に等量のグリセリンを混ぜたものを使用する.幼獣等の死亡例が出た場合には,心筋,リンパ節,主要臓器などを病性鑑定材料に使用できるが,汚染の拡大防止には細心の注意を払う必要がある.採材のために剖検を要する場合には,焼却や集中的な消毒が可能な病性鑑定施設等で実施すべきである.病性鑑定材料を保存液を満たした容器に入れ,密栓したのち,表面を4%炭酸ソーダ液等で消毒する.破損や水漏れのないように2重包装して,凍結させないように冷蔵保存して運搬する.また,血液も採取して水疱材料と同様に冷蔵保存で運搬する.運搬には,上記の要領に従い連絡員が持参するが,空輸等最も迅速な方法を用いる.
  3)診断手法
  病原学的検査では,同時にタイプ分類が可能な抗原検出用のエライザや補体結合(CF)反応,ウイルス分離およびPCR法が,また血清学的検査手法では,中和試験,抗体検出用エライザおよびVIA抗原などウイルスの非構造蛋白質を用いた抗体検出法が,それぞれ標準的な手法になっている[41, 45, 73].なお,口蹄疫を疑う疾病の診断では,実際には口蹄疫以外の水疱性疾病との類症鑑別も同時に実施する.
  (1)病原学的検査法:CF反応は1952年に開発された抗原検出法で,当初は試験管法であったが,現在では微量化したマイクロ法になっている.口蹄疫ウイルスのタイプ分類にはウイルス抗原の立体構造が重要で,で抗原・抗体反応を行うCF反応の信頼性は現在でも高い.わが国では,口蹄疫7タイプに豚水疱病ウイルスと水疱性口炎ウイルス血清型を加えて,水疱性疾病の類症鑑別も可能なCF反応を実施している.しかし,CF反応における抗補体作用や検出感度の問題を解消するため,現在では間接エライザ・サンドイッチ法(Indirect sandwich ELISA)がこれに代わりつつある[45, 98, 121].この方法では,口蹄疫ウイルスの7種のタイプと豚水疱病ウイルスに対する捕捉抗体をプレートに固相化し,次いで検査材料(組織乳剤や感染培養液),タイプ特異検出抗体,標識抗体および基質の順に反応させる.結果は各タイプおよび豚水疱病の陽性抗原との比較で判定する.