このように,汚染畜産物を介した口蹄疫の侵入リスクを科学的に評価する危険度分析手法の基礎資料として,感染動物を用いて実際に畜産加工品を調製し,その中に含まれるウイルス生残条件とその期間が検討されている[16, 57, 78, 81, 87, 88, 120].なお,ウイルスの生残を最終的に判定するためのウイルス分離法には,一般的に細胞培養より検出感度が高い感受性動物への接種試験が用いられる.
  4)キャリアー
  牛,羊,山羊,水牛,シカなどの反芻獣では,感染耐過後またはワクチン接種後の感染で,免疫を獲得した状態でウイルスが食道や咽頭部位に長期間持続感染するキャリアー化の現象が認められる[3, 4, 18, 27, 48, 49, 95, 117, 119].牛ではキャリアー状態が感染後2.5年間持続した例があり,キャリアー動物が感染源になった発生事例もみられている[30, 117].このため臨床症状を示さないキャリアーの存在は口蹄疫の防疫上大きな障害になる.キャリアー動物におけるウイルスの増殖部位は,咽頭粘膜,扁桃咽頭部,軟口蓋,食道前部などで[18, 19],Table 7に示したように,回収ウイルスには遺伝学的にも生物学的にもその性状に変化がみられる[50, 108, 117].

 また,キャリアー動物から回収される咽頭食道粘液中のウイルス量は,牛で100.3〜2.9TCID50/ml,アフリカ水牛では104TCID50/mlにのぼり[3, 4, 27, 117],キャリアー化した動物からのウイルス伝播は,持続感染したウイルス量がある閾値を超えた場合に起こるとされている[61].