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動物の福祉及び愛護

マイクロチップを用いた動物の個体識別

形状

マイクロチップ 直径約2mm_長さ約12mm動物用のマイクロチップというのは、いわゆる電子番号札(『電子タグ』)の中で、動物の体内へ直接埋め込む型のものを言います。このマイクロチップは、長さ12ミリ、直径2ミリ程度の円筒形をしています。内部はアンテナ(フェライト棒にコイルを巻き付けたフェライトロッドアンテナ)とIC部になっています。
この電子タグを用いたシステムは、無線による個体識別(RFID:(Radio Frequency Identification)とも呼ばれ、注射をする要領で動物の体内に埋込まれている電子タグの中に記録されている情報を、専用の情報読取機(アンテナとコントローラからなる『リーダー』)からの電磁誘導によって、電子タグに直接触れることなく動物の体外から情報を読み取り、個体識別を行うものです。
電子タグの利用は、「交通機関でのパスモやスイカ」等のICカード、「スキー場リフトの自動改札」、「自動車の生産ライン」、「高速道路のETCシステム」など、現在では広く利用されています。特に、動物用の電子タグには、マイクロチップの他に、耳につけるイヤータグ型のもの、飲み込ませて胃の中に留め置くボーラス型のものがあり、牛や豚などの家畜に使用されています。
また、動物用のマイクロチップは、動物の体内に埋込んでも副作用などがおきないよう、外部を生体適合ガラスもしくはポリマーで密閉しています。

安全性

マイクロチップの埋込みによる動物への障害はほとんどありません。日本国内で、動物体内に埋込んだマイクロチップの副作用、ショック症状等についての報告は、今までに1件も寄せられておりません。
動物ID普及推進会議及び日本獣医師会で諸外国の機関(WASAVAやBASAVA)での副作用の症例を調べていますが、これまでに腫瘍が認められたという症例が2件ありましたが、何千万頭も埋込まれている中の2件であり、ワクチン摂取によるアナフィラキシーショック等と比較しても、安全性は高いと言えるでしょう。
体内での移動は、それぞれのマイクロチップメーカーが移動防止措置を講じていますが、まれに起こることがあります。しかし、皮下識内での移動であり、筋肉組織に入っていくものではないので読み取りに必要な距離は確保されますので、それぞれのメーカーの作成しているリーダーの説明書に従って操作すればほとんどの場合は読み取れる範囲での移動です。
マイクロチップを埋込んでいても、レントゲン撮影(マイクロチップが写りますが)やCTスキャン操作は支障なく行えます。MRIの画像は乱れることがあり、一般の動物病院等にある磁束密度が0.5T(テスラ)のMRIでは影響はほとんどありませんが、1.5T以上になるとマイクロチップに内蔵されているフェライトコアの影響で画像の歪みが認められます。しかし、磁界によってマイクロチップから発生する力はごく僅かであり、動物の体内における影響は認められません。また、メモリの消去、変更等もなく、MRI使用後のマイクロチップ番号の読み取りに支障はありません。

規格

ペット用のマイクロチップには、いくつかの規格があります。日本で統一して流通されているマイクロチップはISO11784/5に準拠しているFDX-Bという規格になり、起動周波数は134,2kHz、コード体型は15桁の数字で表れます。ISO準拠のマイクロチップには他にHDX(134,2kHz、15桁数字)もありますが、日本ではペット用には流通していません。
ISO非準拠のマイクロチップには、FDX-A(FECAVA規格)、メーカーオリジナル(AVID、Home Again等)がありますが、起動周波数やコード体型が違うため(125~8kHz、9~10桁英数字等)、マルチリーダーを除きISO準拠のリーダーでは読むことはできません。従って、本会のデータベースへのデータ登録も受け付けておりません。
ISO11784コード体系の規格においては、個体識別番号が世界でひとつだけであるという唯一性を保障するものとなっています。
日本においては、15桁の番号のうち最小の3桁が日本国番号392、次に2桁の動物コードを設定していて、牛10、馬11、豚12、ペット14となっています。馬(11)とペット(14)では続く2桁がメーカーコードとして使用されています。
日本では現在4社がマイクロチップを輸入販売しており、以下のコードを使用しています。

大日本住友製薬株式会社 3921480~(全15桁:以下同様)
富士平工業株式会社 3921410~
株式会社共立商会 3921430~
サージミヤワキ株式会社 968~(平成21年度販売製品から3921450~に切り替え)

リーダーのISO11785(通信に関する技術要件)においては、FDX-B(全二重通信) とHDX(半二重通信)の両方と交信できるタグやリーダーを認めています。この通信規格は、64ビットのリードオンリー(改ざん不可)型で、通信距離は長くありませんが、通信可能な領域が広く、動物体内に埋込まれたタグの姿勢(向き等)による影響が少ないのが特徴です。また、金属以外の情報の通過性にも優れ(読取りに当っては周囲の金属の影響を受けやすい)、動物の体内では問題なく通信が可能です。

歴史

ペット用のマイクロチップは1986年ごろから、烙印や入れ墨に替わって欧米を中心に使用され始めましたが、その頃は各メーカーが独自の規格で作成していたため、マイクロチップやリーダーに互換性がありませんでした。
そこで規格を統一するため、1994年にISO11784(家畜のコード体系)が制定、1996年にはISO11785(通信の技術要件)が制定され、ISO11784の対象動物がそれまでの家畜だけでなくすべての動物となりました。
日本には、1997年にマルピーライフテック(現 大日本住友製薬株式会社)により導入され、同時に自社販売製品のデータベースが実用化しました。次いで、1998年には社団法人日本獣医師会がデータベースを設立し、富士平工業株式会社、共立商事(共立製薬株式会社)、株式会社共立商会の販売するマイクロチップのデータの統一管理を開始しました。2002年にはマイクロチップの普及啓発を促進するため、動物ID普及推進会議(AIPO)が全国動物愛護推進協議会 (動物愛護4団体で構成)と社団法人日本獣医師会によって設立され、その事務局を担当する社団法人日本動物保護管理協会に日本獣医師会データベースが移行されデータ管理が行われるようになりました。現在は日本動物保護管理協会は日本獣医師会に吸収合併され、日本獣医師会がデータ登録を行っています。
一方国においては、2004年に「犬等の輸出入検疫規則」の改正が行われ、動物検疫では、動物を日本へ輸入する場合には、ISO規格のマイクロチップの埋込みが義務化され、2005年には「外来生物法」の施行により特定外来生物へのマイクロチップの埋込みが義務化、また「動物愛護管理法」の改正により特定動物(危険動物)へのマイクロチップによる動物個体の識別措置等が義務化されました。
民間団体では、同年にマイクロチップのユーザー/メーカー組織等により「ISO規格動物用電子タグ協議会」が設立され、国内におけるISO規格コード体系が協議されるようになりました。 さらに、愛玩(ペット)動物のマイクロチップに関しては、2006年、「動物愛護管理法」に基づく『動物の所有者明示措置に係る環境省の告示』により、愛玩動物の所有明示の方法としてマイクロチップによる方法が示され、関係行政機関におけるマイクロチップの読取り体制の整備及び公的団体でのマイクロチップデータ管理のあり方がしめされました。この告示後に、それまでの民間ベースでのデータ管理を一元化すべく、大日本住友製薬株式会社と社団法人日本動物保護管理協会のデータベースが統合し、社団法人日本動物保護管理協会による全国一律の方法でデータ管理がされるようになりました。このデータ管理の一元化と期を同じくして、ペットショップでのマイクロチップ埋込み動物の販売がはじまりました。
なお、本会のデータベースには平成22年3月末現在で30万頭以上のペット動物のマイクロチップ情報が登録され、犬やねこ等の動物を保護した行政機関や動物病院での飼い主探しに使用されています。

海外の状況

マイクロチップのペット動物への埋込みは、ここ数年世界的に大きく普及してきています。ヨーロッパでは早くからマイクロチップが採用されており、EU全域では2千5百万頭くらい埋込まれていると言われています。また、アメリカでも1千万頭近く埋め込まれているとされています。近年、ヨーロッパやオセアニア、アジアの一部では、行政機関によるマイクロチップの埋込みの義務化が急速に進んでいます。特に、生態系に特殊性のある島国や、狂犬病予防に力を入れている国などでの義務化が多く見られます。
一方、マイクロチップデータの登録先は、日本国内では公益団体として獣医師会が唯一の登録機関となっていますが、諸外国では、狂犬病の登録と合わせて行政機関が行っていたり、獣医師会主導で民間企業が行っていたり、動物愛護団体、ケネルクラブ、マイクロチップのメーカーが独自に行っていたりと様々です。そのため、登録機関は1国にひとつとは限らず、特にメーカーが登録を行っている国では、参入しているメーカーの数だけ登録機関があるということもあり、中には支障を来たす場合もあるようです。そのために、データベースは基本的にそれぞれの国のやり方で管理されていますが、たくさんの国のそれぞれのデータベース情報を集めたサイトとして、ペットマックスやユーロペットネットのようなサイトもあります。
マイクロチップの規格は、ヨーロッパ、オセアニア、日本を含むアジアの一部ではISO国際規格を採用しており、同じISO国際規格どうしであれば、どのメーカーのマイクロチップやリーダーにも互換性があり、それぞれの番号を読み取ることができます。しかし、ISO規格を採用していない国では、マルチリーダーを使用しない場合には互換性がなく、他規格のマイクロチップ読み取りができません。特に、アメリカでは、ISO国際規格ではない規格(FECAVA規格)のマイクロチップが広く流通し、また、マイクロチップメーカー独自のオリジナル規格(AVID社、HOMEAGAIN社等のオリジナル規格)のマイクロチップもまだよく見られるようです。米国獣医師会や規格協会等はISO企画を推奨しているのですが、切り替えは難航しているようです。
カナダではアメリカより一足先にISO規格への切り替えが行われましたが、まだそれぞれの規格が混在しているようです。また、香港ではAVID社のオリジナル規格を政府が採用しています。その他、台湾など、アジアではマイクロチップの規格が混在している国が多いようです。

動物検疫

動物を連れて国と国の間を移動する場合には、各国の動物検疫の規則に従う必要があります。
日本では2004年に「犬等の輸出入検疫規則」が改正され、犬等の動物を日本へ輸入する場合にはマイクロチップの埋込みが義務化されました。
詳細については、ご利用の各空港の検疫所へお問合せ下さい。
動物検疫所 所在地一覧
http://www.maff.go.jp/aqs/sosiki/address.html

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